FG Premium Report 9月28日号(ボラタイルな動きに惑わされる必要は無い)

INDEX

米国大統領選挙が間近(11月3日)という現実を考えれば、市場の高ボラティリティも理解出来る

先週の株式市場は日米欧共に、激しくアップダウンを繰り返したと感じるにも関わらず、蓋を開けて見ると週間騰落率は大したことは無い。一方で日経平均ボラティリティ・インデックスも、恐怖指数で知られるVIX指数も高止まりしたままだ。やはり市場は大きく上下に動いていたようだ。その一番の理由は、経験的に言っても、あとひと月半後に控えた米国大統領選挙だ。これにまつわる話題がNY市場を駆け巡って上下動を起こすと、これを受けた動きが日本にもそのまま伝わって来る。だが大事なことは、上下動の激しい市場を見ているとどうしても忘れてしまいがちになるが、トランプ大統領(共和党)は元より、民主党バイデン候補だって、株価下落は全く望んでいない。それは景気悪化、失業率上昇、インフレ率上昇、そしてスキャンダルが最も米国大統領選挙での敗因になり易いからだ。ここで誤ったメッセージを市場に送り、株価が急落するような事にでもあれば、その候補・政党が次期大統領になる芽は無くなる。そして共和党にせよ、民主党にせよ、議会で多数派を握れるかが大きな焦点になる。今がその時期だという事を忘れてはならない。

日米各株式市場の先週の終値と週間騰落率

 

百聞は一見に如かず、どれだけボラティリティが高いかを目視確認する

日経平均株価のインプライドボラティリティは前々週末の21.12から先週末は24.03へと寧ろ上昇している。通常の巡航レベルは15.00前後が平時と言える。だからいつもより上下に変動して当然。

VIX指数の方も、前々週末の25.83から週央23に日には28.58まで上昇して、先週末の終値は26.38だ。VIX指数の巡航レベルは12~13程度だ。こちらもアップダウンが激しくて当然と言える。

 

大統領選挙だけが重要なのではない。国会も揺れるからだ。(上院の改選議席は33議席(全体の1/3)、下院の改選議席は定数435議席全部)

米国の上院は現在、与党・共和党が53議席で多数党。下院は野党・民主党が232議席で多数党であるため、所謂「ねじれ現象」を起こしている。上院(定数100議席)の改選議席は33議席だが、欠員などもあるため、現状を維持するためには共和党は23議席維持、民主党は12議席を擁護する必要がある。一方、下院(定数435議席)は全議席が改選となるが、218議席以上を確保した方がマジョリティとなる。CNN(反トランプ・反共和党で有名)などは既に何度か上院での共和党の地滑りを報じたり、リベラル系メディアが現政権運営に対する批判的な報道をしたり、既に選挙戦は終盤戦の大白熱状態を迎えている。

ご承知の通り、米国のメディアも非常に政治色が強い。だからトランプ大統領が「フェイクニュース」だと過去何度もTwitterに呟いてきたことも、あながちすべてが嘘だとは言い切れない。インターネットの普及が、世界的に伝統的な情報媒体の存在意義を問い始めているからこそ、余計に真実の情報以上の付加価値を付けようとしてしまうのかも知れない。或いは、カメラアングルが局部的になってしまうのかも知れない。

更に重ねて現職最高裁判事が逝去、この出来事がもたらした土壇場の混乱

日本で国政選挙が行われる時、よく最高裁判事の選挙が一緒に行われ、私はいつも面食らう。恥を忍んで告白すれば、現在の最高裁判所の判事がどんな人で、誰がやっているのかなど気にしたことが無い。その時は「こう言うことも国民として勉強しなくてはいけないな」と思いつつも、実行に移したことは過去に一度もない。だが米国ではどうも状況が違うようだ。

以前ご紹介した米国のテレビ番組「The West Wing」の中で、最高裁判事を大統領が任命するのに人選の段階から非常に苦労し、議会に根回しをしたりして漸く決める時がある。「米国は大変なんだなぁ」と思っていたら、まさかこのタイミングでそれが現実となった。リベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が亡くなられ、後任人事を決めないとならないのだ。リベラル派とは、当然民主党系の思想のことであり、トランプ大統領は保守派の判事を任命したい。トランプ米大統領は25日、議会共和党などの関係者に対し、連邦最高裁判所の判事候補に保守派のエイミー・コニー・バレット判事(48)を指名する意向を示している。

写真左側がリベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事、

右側が保守派のエイミー・コニー・バレット判事

これについても、既に激しいメディアの舌戦が始まっている。民主党バイデン候補はルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の後任指名を題材にして選挙戦を有利に進めていると報じられ始めている。ただ勘違いをしないで最後まで大統領選挙の行方は見て欲しいのだが、基本的にメディアはリベラル派が強く、日本に聞こえてくる声もリベラル派の声が大きい。そして、やや増幅されている場合の方が多い。だが間違いなく、厳然と米国に保守派は多数いる。大統領選挙の行方をネタに市場見通しを立てるのならば、どの情報ソースからの材料かを斟酌しながら考えないとならない。日本の世論調査と選挙結果に相関性が無いのと似ている。

繰り返しになるが、景気を悪くしたり、株価を急落させたりすることはどちらの陣営も望んでいない。それが敗北に繋がることをよく知っているからだ。また歴史的に言えば、現職大統領の方が多くの面で優位に立つ場合の方が多く、戦後の大統領は13人の内、2期目を狙って落選した現職は3人しかいない。しかもその内の一人はウォーターゲート事件でニクソン大統領の後任に副大統領から横滑りしたフォード大統領だけだ。

ピーナッツおじさんとパパ・ブッシュの敗北理由から見える、1期目で負ける現職大統領の特徴

現職大統領として2期目を目指して敗れた戦後の大統領のあと2人は、ジミー・カーター大統領(1977~81年・民主党)とジョージ・H・W・ブッシュ大統領(1989~93年・共和党)だ。カーター大統領はピーナッツ農場経営で富を築いたことから「ピーナッツおじさん」と呼ばれ、ブッシュ大統領は2001年に息子のジョージ・W・ブッシュ氏が大統領となった為、パパブッシュとか父ブッシュと呼ばれる。パパブッシュ大統領については、私がファンドマネージャーとしてデビューした当時の大統領であることもあり、非常に印象深い。

カーター大統領の最大の敗因は経済政策の失敗と石油危機に伴うインフレによる不況と高い失業率だ。また、イラン革命やその後のイランアメリカ大使館人質事件を防げず、人質救出作戦「イーグルクロー作戦」も失敗したことから「弱腰」と評価されたことが大きい。昔から、米国では「チキン(弱虫)」は馬鹿にされる。だからこそ、トランプ大統領は「Great America Again」と標語を掲げて民主党オバマ大統領の後釜に座れた。何故なら「Yes We Can」の時代、米国は経済的にも、軍事的にも、国際プレゼンス的にも弱くなった印象を国民に持たれたからだ。社会保険制度のオバマケアも日本の健康保険制度とは全く次元が異なる。

それに比べるとパパブッシュは当時の記憶としては、90年に始まった第一次湾岸戦争でクウェートに突然侵攻したイラクを敗戦に追いやったことから人気が急上昇したことの方が記憶に強い。つまり「強いアメリカ」の再現だ。だがその湾岸戦争後の緩やかな景気後退が戦後に高まった支持率を急低下させた。失策の最大なものは選挙戦時に「増税はしない」という公約を反故にして増税したことだ。これを国民は許さずビル・クリントンに敗北した。

こうして考えると、もしCOVID-19の問題が無ければ、今回の大統領選挙は現職トランプ大統領の不戦勝みたいな状態になったであろうなと予想される。少なくともリベラル派などから中傷誹謗は沢山あるし、スキャンダラスな話は多いが、経済は持ち直し、株価は急騰したのは事実だ。失業率も異常なまでに低くなっていた。だとすれば、COVID-19の問題への国民の評価がどうかが大きな争点であることは間違いない。そしてもう一方で、最高裁判事の問題にも連なる人権問題への姿勢が大事だと言える。

私の現状の仮説は、もし民主党バイデン候補が株価動向を無視しても最高裁判事の後任人事に拘り、追加景気対策審議を遅らせるような事に繋がれば、大統領選挙では敗北する可能性が高いと思っている。ワクチンの早期開発・早期配布はトランプ大統領が言うほどには簡単には出来ないだろう。だからこそ、株価が崩れそうになった時「何よりも大事なのは経済回復だ。民主党バイデン候補は最高裁判事の問題に拘り過ぎ、経済を無視している」と打ち出したら、それを世論は評価する筈だ。

今は非常に微妙な駆け引きの中にある。そして重要なカギを握るのが、どちらにとっても株価であることは間違い。ここ暫く、米国のイールドカーブは糊で貼り付けた様に動かない。つまり、エモーショナルに動き回る個人投資家が少ない債券市場は、何れの結果が出たとしても株価が大きく下がるようなこと、つまり景気回復の遅れが起きるとは思っていないのだろう。現にジェローム・パウエルFRB議長はFOMCの後でも「更なる財政政策が重要だ」と景気の先行きに全く楽観せず、現状の対策では金融政策では不充分というトーンを溢れさせている。チャートの作り方が下手なのではなく、5週間分のイールドカーブが重なってしまっている部分が多いことにご留意頂きたい。

 

菅政権のスタートは非常にうまく行っている

米国の政治的な状況とは裏腹に、日本の政治は非常にスムーズに安倍元首相から菅首相へと政権交代が行われた。また内閣の支持率も現時点では非常に高い。多くの政治観を持つ人が居るので、あまり政治の話は触れたくないが、少なくとも「何か実務的に改革が起こりそう」という国民の期待を掻き立てるのには成功したと言える。恐らく、年内の解散総選挙は無いだろう。ましてやもしトランプ政権が民主党バイデン政権に代わったとしたら、「いやぁ、我が国も一緒に代わりました」とするのは如何にも得策ではないからだ。日米関係の外交の絆が一旦完全に切れてしまうからだ。ただ仮に解散総選挙を行ったとしても、今の野党が与党に代わることはまずないだろうと思うが、今は冒険はしないだろうと思っている。

寧ろこのCOVID-19の問題で炙り出された日本の行政システムIT化の遅れへの対応など、株式市場としては期待出来る話題の方が多い。マイナンバーカードに健康保険証や運転免許証の機能を持たせるとなると、そうとう諸々IT関連の設備投資が必要だ。いずれはマイナンバーカード自体がスマホのアプリになるのだろう。

また古い石頭の常識から「個人情報保護のためには、何が何でも独立したサーバーシステム(オンプレミス環境)が必要だ」という概念も打破され、クラウド利用が促進されるだろう。中央省庁が動けば、自ずと地方自治体は動く。10万円給付の終了までに気が遠くなるような時間が掛かるような事は近い将来には無くなって欲しい。

話題となったGOTOキャンペーン、10月1日からは東京発着分の旅行も加わり、都民も動き出す。先週の4連休中の人の移動を見ていると、間違いなく、どこかで「シグナル・グリーン」となれば、相当に溜まった消費も喚起される筈だ。かなりマグマが溜まっているのは明らかだ。だがもし逆に来週10月4日からの週(4連休から2週間目)に入って、新規感染者数が爆発的に増えるようだとシナリオは後ずれする。だが許容範囲内でそれも収まるならば、国内の景気回復は予想外に早まるかも知れない。

 

本当に大丈夫なのか、首都東京の医療行政と来年のオリンピック開催

毎朝集計しているCOVID-19の感染者数のデータを追う限り、今現在この瞬間は、COVID-19は日本国内では殆ど問題にならない。もし、今の日本、取り分け東京都の状況が都知事が言うように「ギリギリのギリ」なのだとしたら、GDP世界第3位の国の首都としてどれだけ脆弱な感染症対策を行政は司ってきたのかと笑うしかない。少なくとも諸外国の水準と比べたら、知事を罷免する理由になるほどだと思う。それほどまでに諸外国の状況とは次元が違う。人口1300万人の大都市で、僅か30人前後のICU病床が感染症で埋まった程度で「医療崩壊」だなどと軽々に言うべきではない。

1995年に起きた地下鉄サリン事件はまだまだ記憶に生々しい。あの時、直接亡くなった方は14人だが、ただそれには丸腰で救助に向かった医療関係者などの数は含まれていない。オリンピックを開催すれば、どんなテロ事件が起きるか予想もつかない。消防は先陣切って出動するだろうし、DMATなども現地に行くだろう。未知の化学兵器が利用されていたら、最低限どれだけの規模の感染対策がされたICUなり、医療関係者を動員しないとならないのか。少なくとも30人前後でヒーヒー言うレベルでは絶対に足りない。事実、諸外国ではゼロの数が2つも3つも違うのだから。もし今の現状で「ギリギリのギリ」だと言うのなら、まずその対策を打ち出すのがオリンピック開催の最低条件だと思う。ワクチンも特効薬も、そんなに簡単には開発されないのだから。

つまり、外部要因で振り回されない限り、現在の国内情勢に心配の目は殆ど無いと考えている。

 

注目の右肩上がりのビジネス・トレンドとトピックス

盛り上がる電気自動車(EV)、ただそのハードルは極めて高い

米カリフォルニア州のニューサム知事が、2035年までに州内で販売される全ての新車を排ガスを出さない「ゼロエミッション車」にするよう義務づけると発表。州内では自動車メーカーによるガソリン車やディーゼル車の新車販売が禁止されることになるという。2035年と言えば僅かあと15年弱だ。本当にこんなことが可能なのかと訝しんでしまう。

一方、大風呂敷を広げることで有名なテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は22日、大幅にコストを引き下げたバッテリーを利用して低価格のEVを生産し、2万5000ドル(約260万円)のEVを実現する計画を打ち出した。テスラを世界最大の自動車メーカーに押し上げる可能性を秘めた計画で、いずれ年間2000万台の生産を目指す考えだという。単独の自動車メーカーとして世界最高の販売台数を誇る独フォルクスワーゲンが昨年打ち立てた水準の2倍近い規模となる。

下のチャートは、矢野経済研究所のプレスリリース「2020年の車載用リチウムイオン電池(LiB)世界出荷容量は200GWhを超えると予測」を基に日本知財総合研究所作成したものだが、車載用のリチウムイオン電池の世界出荷量の予測だ。僅かに2022年までのものでしかないが、その勢いを感じて貰えれば充分だと思っている。上述のカリフォルニアに話や、テスラの話が真実になるのならば、間違いなく車載用リチウムイオン電池の主力銘柄は買いだろう。だが、話はそう簡単に夢語りのようには進まない。

まずテスラのマスクCEOは大幅なバッテリーコスト削減を達成するには3年掛かる可能性があると述べ、同社株は22日の取引終了後の時間外取引で6%超下落した。そもそもこの人は大風呂敷を広げることで有名だから「またか」というレベルの話ではあるのだが、それでも3年で本当に出来るのならば、凄い事だと思われる。

テスラが車載用バッテリー開発で組んでいる相手はパナソニック

テスラが車載用バッテリー開発で手を繋いでいるのはパナソニックだ。太陽電池の共同生産は中止したが、車載用バッテリーでは今でも手を繋いでいる筈だ。そこで、もう1枚スライドを見て欲しい。これも前述の日本知財総合研究所が作成したものだが、車載用リチウムイオン電池に関する特許出願件数を集計したものだ。確かに今やパナソニックの一部となった三洋電機のそれを足し合わせると、トップのトヨタ自動車よりも多くなる。ただ、パナソニックとトヨタは「パナソニック・トヨタ・レーシング」というF1チームを作る程、仲の良い関係だ。当然それはハイブリッドカーの関係があるからだ。パナソニックの車載用電池技術を育てたのはトヨタ自動車とも言える。

だがリーマンショックに端を発する経済状況悪化により、2008年をもってホンダがF1から撤退。トヨタ本社も2009年3月期の連結決算で59年ぶりの赤字を計上したことから、年間数百億円の予算を投じるF1活動の見直しが囁かれるようになり、最終的にはトヨタ自動車の豊田章男社長が2009年シーズンをもってF1から撤退することを発表した。とても懐かしい写真だ。但し、勿論今でもトヨタ自動車のバッテリー開発では良い関係が続いている。

 

パナソニックのバッテリー供給能力が既に限界に来ている可能性が大

気になる話が最近耳に入ってきた。それは2020年6月に販売を開始したトヨタRAV4 PHVがデビュー1カ月足らずでオーダーが殺到したことを理由にオーダーストップ、現在もこの状態が続いているという。また2020年8月に日本で正式発表されたホンダ初の量産EVのホンダeもあっという間にオーダーストップになったという話だ。原因を探ると、それはパナソニックの車載用リチウムイオンバッテリーの生産状況にあるらしい。トヨタのRAV4 PHVが開発を決めた段階では、パナソニックは「電池生産は任せてください!」と大見得を切ったという。「売れるモンなら売ってみろ」的だったそうな。パナソニックとしてはテスラ向け電池を大量に作っているため、トヨタがRAV4 PHVを売ってもたいした台数にならないと考えたと読まれている。しかしRAV4 PHV向けの生産を開始するや、パナソニックの側で思惑どおりに事が運ばなかった。それは要求されたクオリティに届かない電池が多く、目標生産数をはるかに下回り、RAV4 PHV生産のボトルネックになってしまった。下の写真、車体センターにあるのが新開発のリチウムイオンバッテリーだ。

同様な事情がホンダ向けにも起こっている。実はホンダeもRAV4 PHVと兄弟関係になるパナソニックのリチウムイオン電池を採用している。100%電気自動車用とPHV用は電池の中身こそ違うものの、生産方法など共通だ。トヨタ向けが躓くならば、ホンダ向けも躓いて当然。そしてここでキーワードと思われるのが、品質に厳しいトヨタやホンダ向けの新開発バッテリーだということだ。因みに、生産台数は、年間で1000台単位のレベルと言われている。

そもそもリチウムイオン・バッテリーの開発と製造は難しいもの

記憶に残っている人も居るかと思うが、2006年にSONYの代表的な当時のノートパソコンVAIOが爆発するという事件があった。それ以前からもDELLのノートパソコンが爆発して危険だという話もあったが、いよいよSONYのも爆発したかと大騒ぎになった。何故なら、そもそもノートパソコンの分野を画期的に切り拓いたのはSONYのリチウムイオン電池で、当時ソニーケミカルとして上場していた会社が作っていた。その後、ソニーがあらためて吸収合併して抱え直すほど重要な位置づけになったのは、このリチウムイオン電池を作っていたからだ。

実はこのソニーケミカルで実際にリチウムイオン電池の開発に関わってきた人と話をしたことがあるのだが、彼は簡単に言いのけた。「リチウムイオン電池が爆発する何て当たり前なんですよ。工場の生産段階では結構頻発しています。何故なら、それだけエネルギー密度が高いからです。ちょっとの失敗で簡単に爆発します」と。

その時に思い出した話があった。「FPGA(ザイリンクスなど)がこの先こそ必要な簡単な理由」でも登場したTier1部品メーカーの技術系部長の話だ。当時、トヨタのプリウスは他社のハイブリッド車やEVカーとは違ってニッケル水素電池を利用していた。これは3代目プリウス(2009年~2015年)まで続いたが、他社がリチウムイオン電池を採用する中で、どうして相変わらずニッケル水素電池を使用するのかと問質すと「リチウムイオン電池は爆発するんです」と同じように彼も答えていたからだ。

彼はこうも続けた。「どうして中国で一気にHVの開発やEVの開発が進んでいるのか知っていますか?」と。「いえ、分かりません」と答えると「それは国家事業として電気自動車の開発を推し進めているので、発売後の電気自動車が爆発しても大きな問題にはならないからです。でも、日本でトヨタのプリウスが爆発したらどうなると思います?」と。つまりそれほど慎重だということだ。

かつて三菱自動車のパジェロ(ガソリン車)のエンジンルームから出火して悲惨な事故になったことがあったが、某社のエンジニアが言うには「月に一台ぐらいは同じことがうちでも起こっています。ただ報道されないように押さえているだけです。三菱さんは広報が失敗したのでしょう」と。そんな恐ろしい話もあり、私はパナソニックのバッテリー生産がボトルネックとなってトヨタRAV4 PHVのオーダーがストップしているという事態の裏事情をそんな風に受け止めている。

だとすれば、イーロン・マスクCEOは稀代の大ぼら吹きになれるのかも知れない。ちょうど似たような立ち位置の米電動トラック新興企業ニコラが、GMとの戦略的提携を発表した後、まだトラックを一台も生産する前から時価総額がフォードを抜き、時価総額は9月に入って一旦は300億ドル(約3兆1600億円)を超えたものの、同社と創業者トレバー・ミルトン氏を巡る一連の虚偽疑惑の告発を受けて、時価110億ドル弱にまで急減したのが生々しい。

因みに、同社のWebサイトに行ってみると、確かにクルマの写真はある。今週号のアイキャッチ画像もそこから拝借したものだ。だが以前ゲーム機PS5向けの新しいゲームであるグランツーリスモの画像をご紹介したのを思い出して欲しい。実写かCGが見分けがつかなかったレベルだった。二コラのWebページのそれも同様だ試しにここをクリックしてみて欲しい。水素電池のトラックステーションのCGが展開される。どう見てもCGなのだが、これで時価総額がフォードを一時超えたとなると、少々危険な香りを感じなくもない。

My favorite Companies List(株主となって所有したい企業のリスト)

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