市場は希望で上昇し、現実を振り返って休息する
ワクチンへの期待、再規制強化の失望、これを繰り返す
ワクチンの接種が実際に始まれば、次は副作用などネガティブ反応が出ないかを警戒するのは当たり前。ワクチンに関しては案の定、一部にアレルギー反応が出たり、良い結果が得られなかった開発が発表になったり、そしてワクチンへの期待を他所に、再度NYではレストラン営業への規制が厳しくなったりと、米国では目線が上から下に降りた。一方、目下のところ、日本に独自ニュースは少ない。「感染者が過去最高を更新」と報道は煽っても、再度「非常事態宣言」でも出されない限りは、市場は聞く耳を持たない。そもそも数値自体が諸外国に比べて圧倒的に小さいので、危機感を感じている人が予想以上に少ないからだ。「オオカミが来るぞ!」のワイドナショー的な報道だけでは、市民活動はもう止まらない。寧ろ、冷静にこの水準の数値で騒ぐことに、どこかに利権が絡んでいるのではとの話まで出てしまっている。
日米各株式市場の先週の終値と週間騰落率

米国市場、主役は変わったかも知れない
新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから株式市場の大きなテーマは「ニューノーマル」であり、「ウィズ・コロナ」だった。外出を控えるようになっても、食料品を含めて生きていく為には買い物をしなければならず、当然、家に引き籠っていても、仕事も、勉強も、娯楽も無ければ人間は生きていけない。だからこそ、EC銘柄が上がり、リモートワーク関連銘柄上がり、ストリーミング銘柄やゲーム銘柄などが上昇した。それは消去法的に選ばれたのではなく、寧ろ間違いなく時代の変化で新たなニーズと需要の掘り起こしと受け取られ、それは真実となった。
それが真実だと市場が確信を持ち始めたのが、半導体市場の動向だ。2020年、新型コロナウイルスが流行り始めてから既に3四半期分の企業決算発表があったが、需要の先食いとか、一時的な需要盛り上がりで、先々の需要を先取りしただけというような分析・評価が多かった。だが、流石に3回連続で四半期決算で関連企業から「先々を楽観的に見ている」と言われれば、市場もそれを納得せざるを得ない。
まずはこのチャートが端的にそれを説明している。ナスダック総合指数とフィラデルフィア半導体指数の相対チャートだ。説明は不要だと思うが、明らかに青線で描いたフィラデルフィア半導体指数の方がナスダック総合指数をアウトパフォームし始めている。これはナスダック総合指数の中身を見ると非常に良く分かる。

GAFAやFANGから半導体やハードへ
一部銘柄については誤解もあるが、手っ取り早くこの「ニューノーマル」の流れで株価上昇を演出した、或いは素人の投資家も参戦したのはGAFAやFANGと呼ばれる銘柄群だ。だがこの中で実際に物を作っているのはアップルだけだ。アマゾンはECだが、GoogleとFacebookは広告収入モデルであり、Netflixはコンテンツプロバイダーのサブスクリプション・モデルだ。ただこれらに共通するポイントのひとつはCloudだ。どの会社もCloud抜きにはビジネスは成立しない。そしてアマゾンはAWSという世界最大のCloudビジネスの会社であり、Googleもシェアは低いがクラウド・サービスを手掛けている。
最初から彼らはクラウドがあるからビジネスが継続出来、クラウドに対するニーズは飛躍的に伸びており、またクラウドに関する設備投資要求はうなぎ登りだと主張していた。だが、市場は中々それを信じ切らずに居た。折からの米中貿易摩擦のど真ん中に「半導体」問題があり、インテル問題が撒き散らした技術的な困難さなどの話題もあり、半年以上も片肺飛行を続けたと言える。
しかし、流石にこのところのメモリー大手「マイクロンテクノロジー(MU)」の上方修正発表や、半導体製造装置メーカートップの「アプライド・マテリアルズ(AMAT)」の決算発表、また多くの企業がその後の投資銀行主催のビデオ・カンファレンスなどで先々の明るい話を展開するにつけ、漸く状況を理解し始めたようだ。

このチャートも既にお馴染みだと思うが、ご覧頂けるように、時価総額の50%程度を占める上位5銘柄は、このところずっとナスダック総合指数の足を引っ張っている。例えば、広告収入モデルのGoogleとFacebookは景気見通しに緊張感がある中で企業が一番最初に節約する費用は広告宣伝費だ。アップルには5Gという新しい時代の流れの期待感があり、またインテルが半導体製造の技術的問題を克服を出来ずにいる中で、袂を分かって独自のCPUを発表するなど、何かと話題が多い。だがまだ未知数の部分も多く、以前のように牽引役にはなり切れない。アマゾンは大きくなり過ぎたゆえの欧州や政府からの締め付けもあれば、AWSに必要な設備投資など、成長速度がやや足踏み状態となりつつある。だから上方への勢いに乗っている企業は殆ど無い。
それでもナスダック総合指数自体は最高値更新の勢いの中にある。何が引っ張っているのかと言えば、それがフィラデルフィア半導体指数を構成するするような銘柄だ。Huawei問題も関係なく、一時的なリモートワークのブームによる盛り上がりでも無く、この流れは強く、このままAI、IoTやエッジAI、自動運転などに繋がっていく。アプライド・マテリアルズのGary Dickerson CEOなどは向こう10年間はとても強い革新が続くので、需要はうなぎ登りだというような強気コメントも飛び出しているほどだ。
期待と失望、夢と現実が交互に繰り返しながら市場は上昇していく
先々の市場を考えた時、まず「新型コロナウイルスと人類の戦い」は当分終わらないと思っておいた方が良い。確かにファイザーなどのワクチンは接種が開始されたが、既にアレルギー反応などが見られている。また製薬大手の仏サノフィと英グラクソスミスクラインは11日、共同開発している新型コロナウイルス予防ワクチンについて、当初予定していた2021年半ばの供給開始を断念すると明らかにしている。このワクチンは、欧米の製薬会社から来年供給されると予想されていたコロナワクチン全体の10%に相当するので、計画が狂う可能性がある。
そしてそもそも、これはインフルエンザ・ワクチンのように、毒性を落としたウイルスを投与して抗体を作ろうというものではなく、mRNAワクチンという抗原タンパク質の塩基配列を作る情報を持ったmRNAを投与し、細胞内でmRNAが抗原タンパク質に翻訳されて免疫が誘導されるよういする新しいタイプのものだ。実際、これまでに国内では承認されたmRNAワクチンはない。それが充分な治験を終えずに緊急承認を経て投与が開始された以上、利用が進むにつれて必ず副作用が見つかるだろう。
それは仕方が無いことではあるが、場合によっては市場の期待感が一気に萎むことだってあり得る。その危機意識だけは持っておいた方が良い。プーチン大統領はじめ、各国首脳が最初に接種しないところに真意が隠れていると見ている。
だがその一方で、リモートワークの流れなどを当分続くだろう。そしてその一方で、従来からの右肩上がりのビジネス・トレンドは営々と続く。自信を持って各国中央銀行が金融調節バルブを締めるまでは、高所恐怖症の人を脅し続けながらも株価は力強いままに思われる。
注目の右肩上がりのビジネス・トレンドとトピックス
注目を集める脱炭素化社会の課題
「脱炭素化社会」などと非常に簡単に言われ、2030年には何年機関を搭載した新車は販売出来なくするなどという極論迄出てきた。正直、やや異常なものを感じている。それは、その実現に向けたハードルが非常に高いからだ。実は自動車業界ではこの手の研究は長く続いている。かれこれ20年以上は間違いない。その中で、米国市場はハイブリッド車が幅を利かせ、欧州ではディーゼル車がメインとなった。それは「Stop & Go」の頻度が全然米国と欧州で違うからだ。実は欧州車のディーゼル・エンジンを環境に優しいものとした肝心な燃料噴射装置(コモンレールと呼ぶ)を最初に開発したのは、デンソー(6902)だ。だがトヨタが最終的にハイブリッド車に注力することを決めたので、デンソーはそれを独BOSCHに私、その後再び使うようになった。そういう歴史がある。
前回は電気自動車のバッテリーに関する問題について触れた。今回は急激に注目度が高まっている水素について触れてみよう。
足許では究極のエネルギー扱いの水素だが、その水素を作り出す段階で、必ずCO2は発生する。これは誰もが高校生の頃に学んだ単純な化学。水素が大量に存在している一番の例が水「H2O」であることは言うまでもない。欲しいのはその中のH2(水素)の部分だけだ。だとすれば、何らかの方法でO(酸素)の部分だけを分離させれば良いのだが、通常自然界にO2(酸素)単体の状態では存在し得ない。酸化反応というのは、酸素が何かとくっつくから起こる。因みに、鉄も純粋なサビの無い状態で自然界に存在することはあり得ない。だからFeO2となってサビしてしまう。
そんな性質の水素だからこそ、俄かに注目を集めているのがオーストラリアなどに大量に存在する「褐炭」。この「褐炭」から水素を取り出すという方法で、先週だけで日経新聞に3回も記事が掲載されている。ならばこれが完璧な方法かと言えばそうではないことに注意が必要だ。「褐炭」をそのまま燃焼反応(酸化)させれば、CO2が放出されることは簡単に分かるが、Cが無い状態にしてHを取り出すためには、Cを何かにくっつけてあげないと無理だ。実はその時に使うのが酸素。Cと酸素のOがあれば、出来上がるのはCO(一酸化炭素)かCO2(二酸化炭素)しかない。
一般的な石炭ガス化の基本反応式は次の通りだ。これは「石炭ガス化技術と水素製造」という東京大学 生産技術研究所 金子祥三氏の論文からの引用したもの。式①は石炭の熱分解であり、水素や炭化水素ガスなどの揮発分とチャー(固定炭素と灰分から成る残留固形分)に分解する。式②と③は酸素との反応で燃焼と部分燃焼を示しており、ガス化に必要な反応熱を供給している。式④と⑤は主となるガス化反応式であり吸熱反応である。これらの反応に伴い式⑥~⑧に示す反応も行われる。

ここでポイントとなるのは、水素を石炭から生産する段階で、必ずCOなりCO2が発生するという事。結局は元素の結合を替えているだけなので、炭素(C)が無くならない限り、必ず安定できる姿で出てきてしまう。面白いもので、Co2は悪者扱いだが、炭素(C)と水素(H)と酸素(O)が上手く結合すると人間にとって大事なものになる。代表的な例が炭水化物(CH2O)nだ。これが無ければ人間は生きていけない。なのにCO2の形式で存在されると困りものというだけのことだ。
二酸化炭素(CO2)は地中(枯渇したガス田)に埋蔵する
ならばこの方法も駄目かと言えば、水素(H2)を取り除いた後に残るCO2はどうやら地下に再埋蔵する技術が出来たらしい。イマージ図を示すと下記のようになる。現時点の私の知識では、こうやって地中深くに二酸化炭素を埋蔵すれば、純粋に水素(H2)だけを取り出して使う事が出来るらしいとまでは分かった。だが素朴な疑問として、ここからCO2が漏れ出て来ることは無いだろうか疑問は消えないし、これを果たしてゼロエミッションと呼んで良いのかどうかも分からない。単に「ゴミ」を「地中深くに埋めた」だけという気がするのは私の気のせいだろうか。

人間の目の前から取り敢えず「二酸化炭素・地球温暖化ガス」などと呼ばれる不要なものを目に見えない遠くへ棄てただけ。これをエコというのはかなり寂しい気がする。
なぜこうした技術が注目されるのか?
単純な答えは、個々の自動車などがCO2回収システムを作るのは非常にコスト高であり、技術的にも難しいことだ。だが、火力発電所のような拠点であれば、大きな装置を作ってでもCO2を回収することは出来るということだ。だから電気自動車の話が浮上し、2030年以降は純粋な内燃機関エンジンだけのクルマは発売出来なくなるというような措置が講じられようとしている。
更に最近話題の水素燃料だが、大衆的に普及する燃料となるかと言えば、それは非常に疑わしい。それは水素という物質の性格に大きく左右されているのだが、水素は運搬、貯蔵が非常に厄介な代物だ。取扱いを間違えば簡単に爆発する。それは液化してタンクに入れて貯蔵するので、気化した瞬間に体積が急激が膨張し、そして発火し易いからだ。今現在は水素を使った燃料電池車両は、極端に台数が少ない。だから燃料ステーションで爆発したとか、事故でクルマのタンクが破裂して引火して爆発したなどというニュースは聞いたことが無いが、これが今の内燃機関のクルマのレベルで台数が増えたらどうなるかは想像に難くない。
また水素燃料スタンド自体の数の少なさだ。これを相応な数まで新設するとなると、相当な国家プロジェクトとならざるを得ない。実はこの話はもう20年近く前から存在する話題で、これだけ時間が掛かっているという事は、相応な問題点があり、議論が前に出ないという事だろう。
ただもしこれらの問題が克服されたと仮定すると、水素燃料を使えるのは、何も燃料電池の電気自動車だけではない。実はマツダだけが量産車に搭載していたロータリーエンジン、実はこれが水素燃料とは非常に相性が良い。何故なら、水素燃料は急激な圧縮で熱が発生すると簡単に自然発火・爆発してしまう。その為、通常のレシプロ・エンジンだと相当に希薄化したものを大きな排気量のエンジンで使わないと、役を為さない。かつてドイツBMWも真剣に散々検討していたが、彼らが大型の7シリーズのV8エンジンを利用していたのはその為である。
一方、回転しながら空気を圧縮し、そのまま回転運動とするロータリーエンジンだと、何の問題もなく使える。そしてロータリーエンジンは元々小さい。実際に試乗したことがあるが、実にスムーズに乗れる。更なるメリットを上げると、どうしても水素燃料を補給出来ない時、ガソリンにワンタッチで切り替えることが出来る。実はそんな技術も日本の自動車メーカーは持っている。
ただやはり一番全方位で環境自動車対応の研究と開発を重ねてきているのは、何と言ってもトヨタ自動車だろう。
今週注目の米国企業の決算発表
今週は特に注目する米国企業の決算は特にない。そもそもそろそろホリデーシーズンで外国人は居なくなる。彼らが戻って来るのはクリスマスの後だ。
My favorite Companies List(株主となって所有したい企業のリスト)
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