FG Report Premiun 9月9日号

INDEX

所感/雑感

「市場センチメント」の掌返しに慌てた弱気筋、というのが先週の総括のような1週間。少なくとも雇用統計やISM(製造業/非製造業)指数などから先々を評価しようとする方法は通用しなかった。「米中閣僚級協議再開」「BREXITの合意無き離脱の可能性低下」及び「香港情勢の混乱収束」などがきっかけと言われているが、基本はビジネス・トレンドに絡む企業業績だということを強く証明した展開と言える。

日米各株式市場の先週の終値と週間騰落率

上記の表からも明らかな通り、9月第1週は日米共に株式市場は好調だった。特に週後半の上昇の仕方は、明らかに弱気筋のショート・スクイーズ(売り方の慌てた買い戻し)を誘発して、立会中の市場を見ていると弱気筋の「マジかぁ?」という悲鳴が聞こえてきそうに感じられた。

きっかけを作ったのは「市場センチメントの掌返し」だ。とは言え、決定的なものは何も無い。事実、「米中閣僚級協議再開」は10月の話、「BREXITの合意無き離脱の可能性低下」はEU離脱延期法案が可決しただけの話で解決したわけでは全くない。「香港情勢の混乱収束」も、「逃亡犯条例撤回」が宣言されただけで香港市民が平時に戻ったわけでも無い。

ただ、こうした事実がタイミングよく出揃うと「なんでそんなに悲観的だったんだろう?」というセンチメントが沸き起こるのは当然。弱気筋(金利低下を期待する人々)のメインストーリーは「このまま混乱が仮に続くと、景気にブレーキが掛かる」という話であって、実際の数値で、今現在、足許で「ブレーキ」や「リセッション」を示唆するものは何も無いからだ。寧ろ逆に企業収益や米国の個人消費などは上向いている。

週末に発表になった米国雇用統計は市場予想よりも弱かった。そもそもこのところ市場予想が当たった例は少ないのだが、「すわ、リセッションだ!」と弱気筋を勢いづけるレベルでは当然なく、FRBの今月の利下げを25bps分は既に織り込んでいる市場は明確な方向を打ち出せない。ISMが発表する製造業景況感指数は悪いが、非製造業景況感指数は良好ということで、かなり解説に苦労しているエコノミスト達が多いように思われた。

結果、企業業績の実状からは説明出来ない株価水準(安いという意味)のものが買われたり、(売り方により)買い戻されたり、持たざるリスクを感じた機関投資が買いに回ったりして、スルスルと上昇したと言える。日中の日本市場を見ている中で、私がずっと気にしていたのは「NYダウ先物」と「為替水準」。夜になったらNY市場が上昇することを示唆する状況で、円高にも振れなければ、まず日本市場で売り込めるほどの確信犯は居ない。何故なら、日経平均採用銘柄のPERは1.03~1.05だからだ。これは今期、日本を代表する225の企業の平均収益はゼロだと言っていることに等しい。

米国では四半期決算発表のはざまで、この時期投資家向けカンファレンスが投資銀行主催で頻繁に行われているが、私がWebcastingを通じて企業から直接耳にする限り、悪い話は聞こえて来ない。私が追い駆けているのは当然のことながら「注目の右肩上がりのビジネス・トレンド」に絡む企業達。つまり5G、AI、自動車のCASE、IoTなどのプレイヤーだ。米国市場もセンチメントが変われば、素直にそれに反応するしかない。

残念ながら市場センチメントの動向を正確に見通すことは古今東西変わらず難しい。だからこそ株価は常に細かくは上下する。ただ大きな流れはビジネス・トレンドが右肩上がりか否かで決まる。なぜならそれが企業収益のトレンドの鏡だからだ。

注目の右肩上がりのビジネストレンドとトピックス

先週5日(木)と6日(金)の2日間は、某経済新聞のマーケット面のコラムの内容に驚かずには居られなかった。正直「こんな報道をして大丈夫か」とさえ思った。

ひとつ目が下のコラムでタイトルが「5G関連、過信は禁物」というもので、ふたつ目のタイトルが「半導体 近づく売り時」というものだ。記事を書いた記者の名前を記した署名記事なだけ正々堂々としたものだと思うが、これは単に記者の相場観でしかない。だが新聞記者はアナリストでもファンドマネージャーでもない。結果、内容を僕らが評価すると「笑止」と言わざるを得ないのだが、恐らく一般の読者の方には「大経済新聞の市場コラムは正しい」という認識しかないであろうから、こうした記事の責任は本来極めて重い。

もしこの見出しを私が編集局長として修正するならば、前者が「日本の5G関連、過信は禁物」であり、後者が「日本の半導体関連、ついて行って大丈夫か?」などであろう。

最初のコラムについてだが、残念ながら「5Gはまだ殆ど始まっていない」という大前提を忘れてはいけない。米国で一部実験的に商用利用が開始されているが、まだ本番では無いので、WSJ誌などでも「まだ実用化段階ではない」と論じているくらいだ。

また本レポートでも、或いは他のFund Garageの記事でもお伝えしているように、日本に5Gのメインプレイヤーは残念ながら居ない。ITバブルの頃、渋谷あたりの新興企業をネット企業として評して、そのエリアをシリコンバレーになぞらえて「渋谷ビットバレー」と騒いだ人達がいた。当然、今現在残っている企業は殆ど無い。日本の5G関連と呼ばれる企業はそのレベルに等しいと言える。その特殊なごく一部の銘柄を捉えて5G全体を語ろうと言うのは「牛の尻尾に止まったハエを見て、牛自体を語ろうとするようなもの。コラムの見出しはキャッチ―だが、内容は実に「笑止」。


この記事の内容で現代国語の受験問題のように「記事の内容を正しく表すタイトルを付けろ」としたら、恐らくその答えは「新技術に対する期待はどこまで可能か?」とするのが精一杯だ。こうした記事を読む時、投資家は本当に注意が必要だと思う。

下の記事も同様に突っ込みどころは満載だ。表の中に並べられた4つ企業の中で、今のビジネス・トレンドで注目出来る企業を半導体製造装置メーカーの中で選ぶなら「前工程」を担う会社だ。つまり該当するのは東京エレクトロンだけ。ディスコとアドバンテストは「後工程」だ。そもそも新聞に限らず、市場コメントの類も、「半導体関連」という漠然としたいい加減な表現を使い過ぎる。「前工程」と「後工程」と「チップそのもの」の話は、似て非なるものではなく、全く違う話だからだ。

事実、前者のPERは19倍、後者2社は30倍代とかけ離れて違う結果になっているのが証左。他の産業ならば川下と川上とか分けるものを、半導体だけは一括りで語ろうとするからおかしくなる。

ルネサスエレクトロニクスは所謂「日の丸半導体」企業で「日の丸ディスプレイ」同様に現在凋落中。試しに「ルネサスエレクトロニクス」と検索してみて欲しい。多少検索結果を見ただけでも業績面や財務面のファンダメンタルズがぐちゃぐちゃなことは一目瞭然になる。だからこそ、表の中のPERも最も高い52倍だ。私に言わせれば「よくぞ52倍まで買い上がったものだ」と思う。


更に決定的な問題は、この記事の報道内容そのものが間違っている(古い情報)ということだ。確かに韓国SKハイニックスは設備投資を絞り込んでいるが、米マイクロンテクノロジーは「4,000億台湾元(約1兆3,500億円)を投じて、台中市の中部科学工業園区(中科)に最先端DRAMの新工場を建設する計画」と8月26日発表している。これを受けて米国市場では米マイクロンテクノロジー(MU)の見直し買いが加速したぐらいだ。確かに2019年3-5月期の決算を発表した時には設備投資の削減計画に触れていたが、それは6月の話だ。執筆した記者も、デスクも、或いは取材先のファンドマネージャーも把握していないのだろうか? 状況は刻々と変化しているのを捉え切れていないと言わざるを得ない。

メディアの偏向報道とまでは言いたくないが、まだ始まっても居ない5Gを終わったと言ったり、最新情勢にアップデートした事実でストーリーを組まなかったりと、どうも最近のメディア報道の姿勢は問題が多い。日韓関係の話も気を付けて情報収集した方が良いのと同じことだ。

株主となってその企業と一緒に夢を見たいと思う会社10選


*上記表について:日本株、米国株からそれぞれ上限を5銘柄として絞り込み、ひと銘柄当たりの投資余力を10百万円として、株数を計算。売買手数料は証券会社によって違うので考慮していない。ビジネス・トレンドや各企業の状況により適宜入れ替える。ロスカット、益出しルール等の設定はしない。

個別の企業に関わるニュース・コメント


MF10Cの日本株の中で、住友電工、デンソー、ローム、村田製作所については9月4日に来たる9月19日発売の『会社四季報』(2019年4集)の先取り情報というのがネット上で発表になっているので、ご紹介する。

会社四季報は株式投資をする上では需要な情報源。だが、以下に紹介する内容の部分は会社四季報の発行元である「東洋経済新報社の見解」であること、また継続的に見ていないと分かり難い表現もあるのでご注意いただきたい。例えば、ロームの見出しには【大幅減益】とあるが、それに続くコメントを読むと営業減益の理由は単に償却費増と円高影響と読める。この程度のことは既に市場が織り込んでいる場合の方が多い。9月4日には発表されているので少なくとも5日の市場には伝わったあとということになり、同日の株価は7750円からプラス360円高となる8110円まで買われている。

この辺りの総括は19日に『会社四季報』(2019年4集)が実際に発売されたあとの動きを見て解説したい。総じて言えることは、5Gや自動車のCASEに絡む話は増勢、スマホは退潮という大きな流れをあらためて確認出来るということ。着眼点に間違いはない。

念のためにお伝えするが、MF10Cの銘柄である限り「株主となってその企業と一緒に夢を見たいと思う会社」であり、長期投資を目的に「いつでも投資可能で、保有し続けることが出来る銘柄」と定義している。短期的な相場のあやを取りに行くための銘柄リストではない。

① 住友電工(F)

会社四季報先取り情報
【横ばい圏】米中摩擦の関税影響もあり中国向け減速。ワイヤハーネスなど自動車関連やや苦戦。FPCも前半低調。ただ情報通信は5G関連軸に増勢。電力ケーブル堅調。償却・開発費こなし通期営業益横ばい圏。
【5 G】基地局向けに窒化ガリウム無線通信デバイスの生産増強。光関連製品も拡販。持分会社テクノアソシエのTOB実施、連結子会社化へ

https://test.fundgarage.com/4384/

 

② デンソー(G)

会社四季報先取り情報
【反 発】予防安全やパワトレはトヨタ向け軸に搭載拡大。中国の米系や欧州低迷を補う。前期生じた品質関連費用や韓国拠点減損(計約400億円)ない。開発費や償却費増、働き方改革関連費用こなし利益復調。
【新会社】次世代の車載半導体の研究・先行開発会社を合弁(当社51%、トヨタ49%)で20年4月設立。グループの半導体リード。当社単体で自動運転向け半導体も開発中。

https://test.fundgarage.com/4386/

 

③ ローム(H)

会社四季報先取り情報
【大幅減益】車載向けはオーディオやカーナビ関連が減速でもパワートレインやボディ分野が牽引し堅調維持。だがスマホやOA機器向け停滞。産機向けもFA関連減速続き、炭化ケイ素製品の伸長で補えず。円高と償却・販管費増もあり大幅営業減益。

【供給体制】需要増を見据え自社工場増強のうえ、後工程は委託も活用し対応。車載カメラ向け超小型MOSFETを量産へ。

https://test.fundgarage.com/4415/

 

④ 村田製作所(I)

会社四季報先取り情報
【反 落】コンデンサーは高単価の車載用堅調。ただスマホ用は北米向け鈍調を中国向けで補うも出足に需要先食い。通信機器用モジュール横ばい。償却も増え営業減益だが、シェア低下見込む会社計画は保守的。
【投資続く】島根・大田の工場の生産設備増設と近隣の新用地で新棟8月建設開始。車載向けコンデンサーの増産続ける。滋賀・野洲では電極材料の新生産棟を着工

https://test.fundgarage.com/4418/

 

⑤ ソフトバンクグループ(J)

6日に総額5000億円の無担保普通社債(7年債)を発行すると発表した。個人向けの無担保普通社債4000億円と機関投資家向け無担保普通社債1000億円で、利率はともに年1.38%。

当然需要調査を行って発行総額を決めているが、この程度の金額ならば問題なく投資家はいるということだろうし、実際に問題なく販売し切れるだろうと思われる。無担保普通社債であるので、資本が薄まることもなく、寧ろこの社債が発行出来ることを市場は評価すると思われる。

https://test.fundgarage.com/4420/

 

⑥ Nvidia(A)

自動運転システム「NVIDIA DRIVE AV」ソフトウェアで公道を自律的に走行する方法を解説した動画をYouTubeにアップされている。米カリフォルニア州サンタクララにある本社周辺で撮影された約7分半の動画では、同社の自動運転技術が凝縮されて披露されている。

またメラノックス(MLNX)の買収について、中国当局が反トラスト問題について正式にレビューを開始した。特に問題がなければ買収が承認される。

新規にBUYをつけたアナリストがひとり加わった。

https://test.fundgarage.com/4422/

 

⑦ Western Digital(B)

市場はNAND在庫の減少と価格上昇を評価している。逆に言えば、これはビジネス・トレンド自体の評価を高めたわけでは無いので、目先の株価上昇でアップサイド・ポテンシャルが減る話では無い。

SELLからHOLDに変えたアナリストがひとりいる。

https://test.fundgarage.com/4424/

 

⑧ Xlinx(C)

現状、ニュースフローは止まっている。新FPGAチップの市場評価はまだはじまっていない。

HOLDから評価を始めたアナリストがひとり増えた。

https://test.fundgarage.com/4426/

⑨ Applied Materials(D)

シティ2019グローバルテクノロジーコンファレンスコールが9月4日に行われCFOから先々の見通しについて、強気なコメントが発せられた。具体的には「I guess, what I’d say is, we are better positioned now than I think this Company has ever been.:過去に見たことが無いぐらいに素晴らしいポジションに今いる」というもの。このコメントが発せられた翌日、日本では「半導体 近づく売り時」という例のコラムが掲載された。当然、株価は同社のCFOのコメントに従って動いたのは言うまでも無い。

先週とアナリストレーティングは変わらず変化なし。

https://test.fundgarage.com/4428/

 

⑩ Check Point Software Technologies Ltd(E)

今週は特にコメント有りません。

アナリストレーティングに今週は動きなし。

https://test.fundgarage.com/4430/