所感/雑感
先週(7/15~7/19)の日米各株式市場の騰落率は下記の表の通り。流石に米国市場も四半期決算発表が始まる中、最高値更新を続けるわけには行かなかったようだ。ただ18日にニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が「景気悪化の兆候が顕在化した時点で迅速に行動すべきだ」と発言したことを受けて、一旦後退していた50bpsの月内利下げ議論が再度盛り上がりを見せ株価は上昇した。ただそれも翌日には、米ボストン地区連銀のエリック・ローゼングレン総裁が今月の利下げに差し迫った必要性があるとの見解はほとんど示さなかったことで束の間の夢となった。そもそも利下げの有無や幅で動く株価は長続きしない。また後述するが、世界最大の半導体製造ファウンドリであるTSMC:台湾積体電路製造の決算、及び世界第二位の半導体製造装置メーカーであるオランダのASMLの決算発表を受けて、半導体関連株(景気敏感株)が息を吹き返している。
日米各株式市場の先週の終値と週間騰落率

一方、日本株は相変わらずの体たらくである。指数の騰落率だけを見る限り、日米共に遜色ないようにも見えるが、中身は全く違う。日本市場が売買代金で2兆円を超えたのは木曜日に日経平均株価が430円の下落となった日だけ。あとは1兆円台が続いている。そもそも週初から木曜日まで、株価が連日下落した理由が判然としない。ただダラダラと下げた感じだ。
結局のところ、マクロ経済の動向で、それも何故か米国のマクロの場合が多いが、それらで株価評価をする癖の付いてしまった現在の日本市場で、個別銘柄のファンダメンタルズ(ミクロ)をきちんと評価することが出来なくなっているのが原因の一つだと考える。だからこそ、為替や米国の経済指標に関する見立てで指数が先導して株価が動いてしまう。そして個人投資家は禄でもないIPOに掴まり、身動きが出来なくなってきている。
またもう一つ大きな要因は、次世代の大きな変革の中で、世界でメジャーリーガーに成れる日本企業が本当に少ないということも原因のひとつだろう。
国際分散投資というより、ホームカントリー・バイアスを掛けない運用を本当にお薦めしたい。日本株に固執する限り、恐らく運用収益は徐々にジリ貧になると、これほど強く思ったことは過去に無いかも知れない。
注目の右肩上がりのビジネストレンドとトピックス
「5G/IoT通信展」、「光通信技術展」、「映像伝送EXPO」及び「4K・8K映像技術展」に参加
7月17日は東京ビッグサイトで同時開催されている「5G/IoT通信展」、「光通信技術展」、「映像伝送EXPO」及び「4K・8K映像技術展」を視察してきた。別記事「投資で成功するなら、個人投資家もビジネスショウへ行こう」でお伝えした通り、リサーチの原点は現場にある。

今回のイベントは写真でもお分かり頂ける通り、技術的な話が多く、マニアックなものであったのは確かだ。だが、IoTに必要な通信技術は5Gだけではなく、5Gとはある意味真逆の性格のLPWA (Low Power Wide Area)という低消費電力、低ビットレート、広域カバレッジの通信規格も必要だというのは、正直私も初めて知った。こうした発見があるからビジネスショウは面白い。Bluetoothの広域版と考えて頂ければ良い。
カンファレンスで説明されていたのは鉄道の保守管理に使われるIoT(Internet of Things)で、考えてみればこの用途ならば、常時5Gでガンガン電波を送受信する必要は無い。また農業での展開なども既に検討段階から実用段階に入り始めていると知り、昨今の異常気象の中で農作物を荒天から守ったり、水不足の管理をしたりと応用範囲が非常に広いことが分かった。
一方で、公衆5Gに対して、ローカル5Gというのも耳に新しい。考えてみればLocal Area Network(LAN)とWide Area Network(WAN)が既存のインターネット(既存のIPプロトコルのネットワーク環境)あるように、ローカル5Gというニーズがあるのは非常に納得だ。もし本当にSecureな5Gネットワークをローカルに作ることが出来るのならば、自動運転に必要な5Gネットワーク(V2X)は当初はローカル5Gの方が適しているのかも知れない。いずれVPN(Virtual Private Network)のように仮想化されるのだろうとは思うが。この辺は継続的に調べる必要がありそうだ。またこのブースがNECだったのでホッとした。旧電電ファミリーと言われた会社が、いちおうはまだ5Gに絡んでいた。(実際はあと富士通が少々関わっている)
何故なら、本当に日本企業がこの大きな変革の中ではメジャーリーガーになるところが少ないからだ。ソフトバンクグループの孫会長があるプレゼンテーション(後述:ソフトバンクグループの欄)の中で「Vision Fundで投資を出来る日本企業が、投資をしたくても残念ながら無い」と言っていた通りだ。半導体製造装置や電子部品、或いは今日韓問題で話題の3品目のような分野以外で、日本がハイテク関連のインダストリー・リーダーとなる分野は極めて少ない。
ファンダリー最大手のTSMC「台湾積体電路製造」とEUV露光装置のASML、両者の決算発表から見えてくるもの
17日と18日に相次いで台湾企業で半導体ファンダリー世界最大手のTSMC「台湾積体電路製造」と、EUV半導体露光装置メーカーであるオランダのASMLが決算を発表し、共に市場に安心感をもたらしてくれた。
ファンダリーとは、半導体の設計開発だけを行うファブレス(工場無し)半導体企業の製造請負を行う業態で、TSMCが世界の6割近い市場シェアを握っている。主なクライアントには、NVIDIA、AMD、Qualcomm、Xilinx、或いはBroadcomやMarvellと言った企業が並ぶ。
ポイントは微細化の最先端を行く7nmでの半導体生産が出来るという事で、NVIDIA、AMD、Qualcomm、Xilinxなどが生産を委託している点だ。Samsungもファンダリー・ビジネスを行っているし、7nmでの生産も可能な筈だが、市場シェアは僅か7%強である。
つまりTSMCの決算を見ていればMF10CのNVIDIAやXilinxの半導体の製造状況も推察出来るということだ。TSMCの発表資料を見ると、HPC(High Performance Computer:データセンタで使われ、NVIDIAのGPUなども関係してくる)とIoTが大きく伸びていることが伺える。別のページには7nmで作る半導体が既に21%になってきていることが説明されている。
そして、3Q19のガイダンスでは、US$9.1bil~$9.2bilの売上を予想している。2Q19の売上がUS$7.75bil(ガイダンスではUS$7.55-7.65)、1Q19がUS$7.10bilだったので、回復してきていることが分かる。それにしても、何故日経新聞は暗いマイナスの側面にだけ光をあてるのだろうか。19日の朝刊の見出しは「TSMC、スマホ低迷重く4四半期連続の減益、4~6月は10% 反転攻勢へ大型投資も」となっていた。だから「日本不経済新聞」などと揶揄されるのだ。ただ翌20日の朝刊では「半導体市況に復調期待 TSMC、2カ月ぶり高値」という記事で、評価を市場のそれに合わせたのには苦笑した。

もうひとつ裏を取れるのがオランダのASMLの決算だ。この会社は売上規模で世界第2位の半導体製造装置メーカーであるが、内容は半導体露光装置メーカーである。EUV露光装置という1台が約1億ユーロもする機械を作っている。競合にかつてはニコンやキャノンなどが居たが、半導体の微細加工技術が進むにつれて、キャノンは早々に最先端分野では戦線離脱、ニコンも虎視眈々と復活を狙うが、まだその夢は叶いそうもない。
EUVとはExtreme Ultraviolet Lithography:極端紫外線リソグラフィのことで、7nm以下に微細加工をする半導体製造はこれでしかできないと言われている。(ニコンはArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザーを用いた“ArF液浸”という技術で5nmに対応する露光装置を昨年のSEMICON JAPAN2018で発表してはいる)。
この蘭ASML社の決算での注目ポイントは、このEUV露光装置の受注動向だ。終わった期の状況とコメントはプレゼンテーション資料の表紙が雄弁に語るが、大切なのは受注動向だ。これはプレゼンテーション資料だけでなく、カンファレンスコールのアナリストとのやり取りが参考になる。

それによると「2Q19ではEUVは予想よりも1台多い7台を出荷したが、既に新しい10台の注文を取っている」と説明している。1Q19は4台の出荷なので、伸びが著しいことはお分かり頂けるだろう。何せ1台が1億ユーロ(約120億円)の露光装置なのだから。
トレンドを見るには次のスライドが役に立つかと思う。総売上のブレークダウンだ。技術的にはEUVが増えてきていること、メモリ系よりもロジック系が強いこと、そして、米国と中国で合わせて8%シェアが落ちたところを、台湾3%、EMEA3%、日本2%といった感じで穴を埋めている。EUVの出荷が4台から7台に増えているのは前述の通り。日本の増加分がEUV露光装置ならば、購入したのは四日市の東芝メモリ&WDCの半導体工場だろう。いずれにしても、台湾が伸びているのは明らかにTSMCのことで、これは同社のガイダンスとも整合する。

総合して言えることは、半導体市況の回復が仮にまだ遅れるとしても、ビッグウェーブがその後に来ることだけは確かだという事だ。
株主となってその企業と一緒に夢を見たいと思う会社10選

*上記表について:日本株、米国株からそれぞれ上限を5銘柄として絞り込み、ひと銘柄当たりの投資余力を10百万円として、株数を計算。売買手数料は証券会社によって違うので考慮していない。ビジネス・トレンドや各企業の状況により適宜入れ替える。ロスカット、益出しルール等の設定はしない。

個別の企業に関わるニュース・コメント
① 住友電工(F)
「第19回光通信技術展」に出展し、データセンタの省スペース化を実現するPrecisionFlex® MPOカセットパネル、世界最小最軽量の融着接続機、細径・軽量の光ケーブルなど、高度情報通信社会を支えるさまざまな製品を紹介する予定と発表されていた通り、その実物を見ることが出来た。下の右の写真がするPrecisionFlex® MPOカセットパネル。

下の左側の写真が、世界最小最軽量の融着接続機のデモンストレーションだ。これらが下の右の写真のようにデータセンタのサーバーラックに大量に使われる。

これらの実物を見て「だよね~、データセンタだよねぇ、要るよねぇ」とブツブツと呪文のように納得した。データセンタでも、5Gと同じようにサーバーとストレージ間、或いはサーバーとAIユニット間などの接続は超低レイテンシー(遅延)が求められる。従来のようなLANケーブルというわけにはいかない。ただ光ファイバーは銅線のように曲がらないし、接続するのも大変だ。折れたら使えない。そしてきちんと融着しなければ、光が届かず意味の無いケーブルになる。相当な需要が世界的にはあると、あらためて認識し直した次第。たぶん、同社のこの分野での価値を市場はまだ気が付いていないと思う。
2019年度第1四半期決算発表は7月31日
https://test.fundgarage.com/4384/
② デンソー(G)
デンソーの組織改革が止まらない。今度は新たなサテライトR&D拠点を米国シアトルに開設したという。ここでオープンイノベーションを強化し、モビリティサービスの研究開発を加速させる。デンソーは、多様な車両データを収集・解析するための車載コンピューター開発や、車両データをクラウドコンピューターと通信で連携させる技術を培ってきたが、今回の拠点を新設したシアトルには、IT系企業や大学が多く集結しており、デンソーが保有する車両向け技術と先進的なIT技術の融合が進められるという。
「三河のお堅い生真面目な自動車部品の会社」という印象を持っている人が多いと思うが、実態は物凄くアグレッシブに変革できる会社だ。だからこそ、昔から追い駆け続けている。
2019年度第1四半期決算発表は7月31日
https://test.fundgarage.com/4386/
③ ローム(H)
今週は特にありません。
https://test.fundgarage.com/4415/
④ 村田製作所(I)
株価が冴えないのが何とも悩ましいが、会社自体は力強く前進している。市場が何を気にしているのかは正直分からない。MLCCという観点では、間違いなく村田製作所が世界一であり、TDKや太陽誘電とは別格なのだが・・・。
最新の同社のプレスリリースによれば「世界最小サイズのSAWデュプレクサ、フィルタを開発、量産を開始~回路設計の高密度化、スマートフォンの多機能化に貢献~」とある。
何ですか?それはという質問にお答えするように、同社の説明をご紹介すると「高性能化するスマートフォンにおいて使用される電子部品はさらなる小型化が求められています。特に特定周波数を送受信する役割を持つSAWデバイスはスマートフォンのマルチバンド対応のため、特定地域に対応したミドルクラスの機種でも1台あたり14個~15個、グローバル対応のプレミアムモデルでは30個~40個採用されることがあり、小型化のニーズが非常に強い部品です。当社は独自の設計・小型化技術を用いることで、チップ設計とパッケージング方法を徹底的に見直し、世界最小サイズを実現すると同時に従来品と同等以上の特性を持つ本製品を開発しました。」つまり世界一の商品だという事。
故に、投資をしていることに何の不安も無いのだが、他の電子部品が上がる中で取り残されていると凄く奇異に感じる。恐らく、大きな投資信託などの解約対応のための売りなどが出易いのだと思われる。
2019年度第1四半期決算発表は7月31日(貿易摩擦などの影響が見えるかも知れない)
https://test.fundgarage.com/4418/
⑤ ソフトバンクグループ(J)
7月18日と19日の両日、「Softbank World 2019」というイベントが行われた。下の写真が孫会長の最初に行った基調講演のワンシーンである。前述したソフトバンクグループの孫会長が「Vision Fundで投資を出来る日本企業が、投資をしたくても残念ながら無い」と言ったのはこの基調講演だ。
Vision Fundが投資をしているユニコーンと呼ばれるAIを取り入れて急拡大したアジアの企業のCEOも数名登場した。残念ながら孫会長の言う事は正しいと認めざるを得ないと思われた。投資家として出来ることは、だからこそ国際分散投資なのだと思う。それはリスク低減のための国際分散ではなく、リターンを得るために必要な国際分散なのだと思う。

上述の基調講演以外にも多くのセッションがあったのだが、ひとつご紹介したいのがソフトバンクとマイクロソフトが提供を始める新サービスだ。それをコミュニケーション4.0という形で説明していたが「音声をクラウドデータ化(デジタル化)して、それをAIと組み合わせる」というものだ。

たぶん中々その世界観はイメージし辛いと思う。だがもう現実にそこまで来ているのも事実だ。5Gとこれを組み合わせると何が出来るか。世界中どこに居る人たちとでも、テレビ会議が行え、言語は全てリアルタイムで翻訳され、議事録が作られ、画像データや議事録をAIで解析して次の創造的な作業が行える。オフィスワークの概念は著しく変わるのかも知れない。複数の通信キャリアを傘下に持ち、Microsoftと組んだことで始まるドラマは、もしかすると世界を一変するのかも知れないと正直思った。
2019年度第1四半期決算発表は8月7日
https://test.fundgarage.com/4420/
⑥ Nvidia(A)
米国のアナリストの間で、NvidiaのAI分野に関する価値が充分織り込まれていないのではないかという議論が高まっている。実際、データセンタでAIを担っているのはNvidiaのGPUであり、今後仮にAMDが押し寄せて来る、或いはXilinxの新チップが同分野を狙っていると言っても、ゲームという分野以外の織り込みが少ないという意味だ。またTSMCの決算コメントによれば、仮想通貨のマイニング分野でのニーズも、再び増加傾向だという。
次の決算発表は8月15日の予定。
Holdのアナリストが1人消えた。

https://test.fundgarage.com/4422/
⑦ Western Digital(B)
日本が韓国への輸出を通常に戻したことで日韓問題は最悪の事態になっているようだが、これらによって、もし韓国の半導体生産が止まれば、DRAM75%、NAND45%の供給が止まるので、まずは市場の在庫問題は雲散霧消する。それを危惧して、DRAM価格はスポット市場で15%も値上がりしている。
NANDの大手は東芝メモリと手を組むWDCだが、同社の四日市にある工場も停電からの回復の為、まだフル稼働というわけでは無い。ASMLの受注状況を見ていると、日本の比重も僅かながら上がっていた。EUV露光装置を使うのは、最先端メモリでもあり、恐らくこの工場だと思われる。つまり前向きに物事は進んでいる証拠だ。
同社の四半期決算は7月31日に発表される。楽しみだ。
Holdのアナリストが1人消えた。

https://test.fundgarage.com/4424/
⑧ Xlinx(C)
恐らく決算発表前のクワイエット・ピリオドなので、情報は何も出てきていない。
アナリスト評価に変化なし。
同社の四半期決算は7月24日に発表される。同時にQ1 Fiscal Year 2020 Financial Results Conference Callも行われる。

https://test.fundgarage.com/4426/
⑨ Applied Materials(D)
決算期が5-7月期になるので、同社の発表はまだ先だ。とするとやはり蘭ASMLの決算内容から状況を推察することが出来るが、底打ちの兆しはあるのだろうと思われる。何故なら、EUVの露光装置を一台購入しても、新しいプロセスの半導体製造ラインは作れない。露光装置以外を購入するとなれば、AMATか東京エレクトロンかなどとなる。
ASMLは盛んにロジックが強いと言っていた。これの意味するところは、単純には非メモリだと思われるが、もしかするとストレートにインテルの事を指しているのかも知れない。だとすれば、AMATには非常に良い話という事になる。
アナリストの評価は今週変わらず。

https://test.fundgarage.com/4428/
⑩ Check Point Software Technologies Ltd(E)
同社もクワイエット・ピリオドの関係で情報が何も出て来ない。
同社の決算発表は7月24日の予定だ。
今週はアナリストレーティングに変化なし。

https://test.fundgarage.com/4430/
