所感/雑感
先週(5/20~5/24)の日米各株式市場の騰落率は下記の表の通り。今週も米中貿易摩擦問題に端を発したHuawei(ファーウェイ)問題があり、更にはクアルコムが再度司法の泥沼に落ちる羽目(後述)にもなり、NASDAQの下げがきつい。これらはどれも結局「注目するビジネス・トレンド」にもろに影響する話なので、今週もMF10Cのパフォーマンスは厳しい。

私の胃はファンドマネージャー時代に鍛え上げた「鋼(はがね)の胃袋」と強がってはみたところで、今も昔も本心胃が痛いのには変わりはない。ただ、たぶん他人と違う事があるとすれば、こういう状況下で何をするのが一番良いのか、ということを知っていて、それを忠実に実行することで、落ち着いていられるだけだ。
でも毎朝ニューヨーク市場の動向をチェックしては「またかぁ」と思ってしまう。何をしているのかと言えば、それがこのところ立て続けに公開しているFund Garage Webサイトの記事であり、お届けしているプレミアム・レポートのコンテンツだ。要は「現場100回、原点に立ち返り、変化の有無を確認する」ということ。
多くの市場関係者の様に、株価の上げ下げ(というより下げ下げ、まるで「大名行列の“下に~、下に”」という感じか)に日々一喜一憂しながら、それでも尚飽き足らないのか、悲観的な気分を煽るような記事を読んではため息をつき、どうしようかと悩んでみても決して良い答えなど出はしない。こんな時は株価をみないことだ。当初の投資ポリシーに基づいて、何に対してどうして投資をしたのか、その流れに変調は無いか、などを確認すること、それが一番の妙薬だ。なぜなら、その流れには全く変調が無いからだ。
投信の運用をしていた時代、ファンドの運用担当者としてお客様に「暫く厳しいかも知れないから、気になる方は一旦解約してください」と言いたいような下げ相場もあったし、逆に「この下げは好機だから、買い下がるつもり(実際は買い下がれないで戻ってしまうかも知れないけれど)でファンドを買ってください」と言いたい下げ相場もあった。
ただ不思議と前者のような時には資金が逆に入ってきてしまう一方で、後者のような時には、いくら毎週の「ファンドマネージャー・コメント」に切々と訴えるように書いても、さっぱり資金は集まらなかった。のちに行動経済学をバークレイズ時代にかじるようになって、投資家の行動心理を学んで、或る意味でマジョリティはそれで仕方ないということも教わった。投資で勝てるのは天邪鬼な発想の出来る人であり、大勢と一緒の発想しか出来ない人は投資で勝つことは出来ないからだ。
ならば今はどっちだと問われれば、もちろん後者の方だ。資金を呼び込みたい下げということだ。日米の関連企業の決算を正にレポート等に書いた通りに分析し、或いは水曜日から金曜日までパシフィコ横浜で行われた「人とクルマのテクノロジー展」に赴いたりしながら頭の中を整理してみた結論がこの後者の方にあたる。
参考までに、半導体株指数として名高い「フィラデルフィア半導体指数」の直近過去2年分のチャートを下記に示す。ご覧頂ける通り、昨年夏前の水準に逆戻りしてしまっている。これは株式市場全体を表す日経平均株価や、いわんやNASDAQと比べても更なる下落が起きていることが分かる。他の指数はそこまでは全然下落していないのだから。
フィラデルフィア半導体指数の過去2年間の推移のグラフ(Fund Garage作成)

市場は一旦弱気虫が騒ぎ出すと、極端な状況になることがあるが、今がその時だと思う。考えても見て欲しい。GmailもYouTubeもMapも使えず、マイクロソフトのOfficeソフトも駄目だとなると、Huawei(ファーウェイ)の強弁、すなわち米国の技術は無くても全部自前でやれるというのはどこまでリアルなのだろう。
すべて自社開発?それが無理なことぐらい、本人たちが一番よく知っている筈だ。同じことが半導体にも言えるだろう。ARMアーキテクチャー無くして、クアルコムの通信技術無くして、日本製の高性能なコンデンサー無くして、同品質のものは絶対未だ作れないだろう。たかがコンデンサー、されどコンデンサー、日本の技術も侮ってはいけない。
この週末はトランプ大統領が令和の時代の最初の国賓として来日される。批判的なメディアの記事もあるが、私はそうでは無いと思っている。今の経済状況、政治状況、地政学的リスクのどれを取っても、今ここで米国大統領と日本の首相が夕食を共にし、ゴルフを楽しみ、国技相撲の観戦をするということの国際的な、取り分け対アジア圏に対するデモンストレーション効果の大きさだ。先般韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領夫妻がワシントンDCに、自国の大事な祭事の日程にかぶらせてでも訪米したにも関わらず、トランプ大統領との単独会談は適わなかったという事象の後だけに、これはかなりアジア経済圏においても際立つものとなると思われる。
注目の右肩上がりのビジネストレンドとトピックス
今週は横浜パシフィコで行われた公益社団法人自動車技術会が主催する「人とくるまのテクノロジー展2019 横浜/2019年5月22日(水) ~ 24日(金)」に足を運んだ。その他のスケジュールとの兼ね合いもあり、最終日に行くことになったのだが、その人混みには驚いた。
テーマは「自動車業界の第一線で活躍する技術者・研究者のための自動車技術の専門展」ということで、主催者側の発表によると三日間の来場者数の延べ人数は95900人だそうだ。ただ最終日は自動運転バスの試乗体験がなぜか中止になっており、乗ることは出来なかった。車両自体は展示されていて、黒山の人だかり状態ではあった。
クアルコムがアップルとの訴訟合戦から解放されたかとホッとしたのも束の間、今度は米国連邦地裁が同社のビジネスモデルに対して独禁法違反という判断を下した。ワイヤレスチップ市場における慣行に関して米連邦取引委員会(FTC)が起こしていた裁判で、米連邦地方裁判所のルーシー・コー判事は米国時間5月21日遅く、長く待たれていた裁定を下した。コー判事は、クアルコムが自社の特許に不当に高い使用料を課し、競合他社を排除して反トラスト法に違反したと判断。スマホ価格に一定の比率でロイヤルティーを課す慣行に異議を唱えたということだ。
この話を聞いた時の第一印象は「また面倒臭い事になった」というものだったが、思い出されたのはマイクロソフトが自社製OS、すなわちWindowsにインターネット・エクスプローラーをバンドルすることに関して始まった一連の独禁法違反裁判だ。
そしてある年月を経て、マイクロソフトはWindowsでインターネット・エクスプローラー以外のWebブラウザも選択出来るようにし、結果として消費者はGoogle ChromeやFirefoxなどの選択が可能となった。そして尚且つ、誰もネットブラウジングを止めた訳では無く、飛躍的にネットの利用者は増えたという結果になった。検索エンジンについても同様な過程を辿ったと思われる。因みに下記は、2019年3月末現在の日本国内におけるWebブラウザのシェアランキングである。過半数を握る独占的なブラウザは最早存在しない。

恐らく、5Gの普及に関して、この司法判断は特段マイナスの影響は与えないであろう。苦しいのはクアルコムであり、いずれ競争相手が台頭してくる。ただパイそのものが大きくなると言うか、これから始まる話なので、クアルコムに対してでさえ過度の悲観は禁物だろうと思う。マイクロソフトの歴史がそれを証明している。
株主となってその企業と一緒に夢を見たいと思う会社10選

*上記表について:日本株、米国株からそれぞれ上限を5銘柄として絞り込み、ひと銘柄当たりの投資余力を10百万円として、株数を計算。売買手数料は証券会社によって違うので考慮していない。ビジネス・トレンドや各企業の状況により適宜入れ替える。ロスカット、益出しルール等の設定はしない。
電子部品と半導体の値下がりが凄い。そろそろ「コツン」という底を打つ音が聞こえてくることを期待しているのだが、トランプ大統領がどんなカードを米中貿易摩擦問題に切って来るのか未知数なものが多く、一方で企業側からは何のメッセージも発信されないため、市場の疑心暗鬼は深まるばかりという印象だ。
ただその一方で、「人とクルマのテクノロジー展」などに行ってみて明らかなのは、クルマのテクノロジー展なのに油臭いメカの部分のテクノロジー展とはもう決して言えるものでは無く、完全にエレクトロニクス関連のイベントという感じになっているということだ。自動車の電装化という表現は使われて久しいが、ここに来ていよいよ加速しだしたといえる。まずは下の写真をご覧頂きたい。

実はこれ、DENSOブースに展示してある自動車部品である。新しいオーディオシステムなどではない。左奥が車両駆動用のモーターであり、真中がクルマの頭脳とも言えるECUで、手前のふたつが「On-Board-Charger」、「Inverter」である。右奥は「DC-DC Converter」とどれもハイブリットカーや電気自動車ではお馴染みになもの。それに「ELEXCORE」とブランド名を付し、「感動の瞬間は、電気の一雫から」というコピーを添える。これがDENSOである。Appleではない。
下の写真はTDKのブースで見つけたAUDI向けの「DC-DC Converter」の分解モデルある。上の写真のものとは異なるものだが、右奥のが同じく「DC-DC Converter」であり、あれを分解しても同じような中身が出て来る筈だ。TDKはその中の電子部品を作る会社なので、中身を見せなければ展示する意味が無い。ご覧頂けるように、パソコンの内部のようなイメージでは無かろうか?

他にも色々と紹介したい事例があるのだが、要はこの流れも当然半導体や電子部品の需要をドライブする大きなトレンドだという事である。
最後にもうひとつ、こんなものを住友電工のブースで見つけたのでご紹介する。

お見せしたいものは下半分の黒い箱なのだが、これだけ見ても分からないので、何物かを表示してある液晶を含めて写真に収めた。
これは車載用ネットワークがイーサーネットになった時のイーサスイッチECU、分かり易く言えば車内ネットワーク用のLANルーターだ。現時点では車載のネットワークにそれほどの帯域も速度も必要が無かったので、イーサーネットという規格は使われていない。だが今後の自動車のCASEという流れの中では必然的に高速・大容量が求められるようになる。
社外のデータ通信の規格と合わせるという意味でも必然なのだが、ポイントは「車載用」ということだ。家庭用のバッファーローなどのルーターではあっという間に壊れてしまうだろう。更に「セキュアでデータロスが少ない」など要求は多い。今回のエキスポはあくまで「人とクルマのテクノロジー展」であり、ハイテク・ビジネスショウではないことを忘れないで頂きたい。その意味で、私は非常に安心感を貰って会場を後にすることが出来た。

個別の企業に関わるニュース・コメント
① 住友電工(F)
クルマのワイヤハーネスの主力メーカーである同社のブースに出展されていたのだが、これを人体模型に喩えるならば「循環器系と神経系」の人体標本模型と呼べる。
黒いのが神経系であり、オレンジ色のラインが電気が流れる循環器系である。前述のイーサーネットの話では無いが、今後ますますクルマの神経系は複雑化していき、循環器系はロスの少ないものが要求されるようになる。車の中にこれだけのワイヤハーネスが張り巡らされているということは、当然その重要性も高いということだ。神経系が切れても、循環器系が切れても、人間と同じように脳卒中や心臓発作と同じことになるのだから、誰でも作れるものでは無いし、そこには無言の参入障壁が存在するとも言える。

https://test.fundgarage.com/4384/
② デンソー(G)
「踏み間違い加速抑制装置」の展示ブース内。
左のパネルにあるように、表示機とコントローラーと超音波センサからなるもので、右側の写真の左下にある弁当箱のようなものがコントローラーであり、その右の黒丸がセンサ、そして表示機と並ぶ。
確かにただこれだけのもので、大きなコーナーにはならないなと苦笑いではあったが、パネルの文言を見てちょっと納得した。それが「今お乗りいただいているクルマに後から取り付けることが可能です」という文字。対象車両は、プリウス、アクア、プリウスα、プレミオ、アリオンとある。
もし、あと数年早くこうした装置が一般化していれば、先日の池袋での87歳の高齢ドライバーが起こした交通事故の犠牲者は助かっていたのかも知れない。こういうモノの開発を担う企業こそ、本来、きちんと応援すべきと思う。最大の社会貢献になる筈なのだから。

また24日に開催された投資家・アナリスト・メディア向けの事業説明会「デンソーダイアログデー」の資料が早速アップされている。
https://www.denso.com/jp/ja/investors/library/dialog/

基本的にどのPDF資料も参考になるが、取り分け下の3つが面白いかも知れない。あらためて解説する機会を作りたいと思う。
https://test.fundgarage.com/4386/
③ ローム(H)
確かに2020年3月期は減収減益予想ではある。為替の前提はドル円105円。19/3月期実績より5円以上の円高を読んでいる。売上高△2.3%、営業利益△30.2%は「誤差の範囲です」と笑って言える水準では無いのは事実だ。
と言っても、きちんと最終利益を計上する会社の株価がPBR0.88倍というのは如何なものかと思ってしまう。決算発表時点のPBRが1.04倍であるので、バリュエーションが大きく低下している。特にネガティブな話は聞こえてきていない。下のスライドのような絵は、沢山描けるのだから。

https://test.fundgarage.com/4415/
④ 村田製作所(I)
今回の「人とクルマのテクノロジー展」に村田製作所の出展は無かったこともあり、TDKがやたら目に付いたわけだが、電子部品がどう自動車のCASEの中で役立つかなどを知る上で、このブースは面白かった。
これは車載部品全体としてはルネサスエレクトロニクス株式会社の「車載情報システム/安全運転支援システム向け」の電子基板である。そこに同社のパワーインダクタ(電子部品のひとつ)が、どこにどんな風に使われているかを見せている。拡大写真と下に敢えて表示しないと分からないサイズのものだが、これが無いとこうしたサーキットボード(電子基板)は成り立たない。ましてや車載用の要求品質は高い。
これを見ながら何が面白かったかと言えば、接続端子の豊富さである。何らノートパソコンのそれと変わらない。USBあり、HDMIあり、SDカードスロットあり、更にはPCI ExpressやSATAなどもある。これだけのソケットをフルに使う機能とは、どんなものなのか、想像するだけでワクワクしてしまう。間違いなく、電子部品メーカーに春は来るはずだと考える。

https://test.fundgarage.com/4418/
⑤ ソフトバンクグループ(J)
市場のあるコメントを読んでいたら「傘下の英半導体設計大手のアームにファーウェイとの取引停止の思惑が浮上していることが嫌気されている。これに加えて、ロイターが22日、同社傘下の米携帯スプリントとTモバイルUSの合併計画について米司法省の担当者が阻止するように省内で提言したと報じたことで、前日の米国株市場でスプリント株が急落したことなども影響している。」(国内ネット証券アナリスト)というコメントが引用されていた。
後段については分からなくも無いが、前段がもし本当ならば正に笑止。たぶんアーム(ARM)の事が分かっていない、すなわち同社を買収発表した時にストップ安まで売り込んだ市場関係者の見立てそのものだと思う。
https://test.fundgarage.com/4420/
⑥ Nvidia(A)

来月5日、6日と証券会社主催のカンファレンスでプレゼンテーションがあるようであり、Webcastingで試聴できるようだ。是非、楽しみに聞いてみたい。
株価は下落したが、決算発表後のアナリストのレーティングも変わらず、正に巡行しているとしか言いようが無い。

https://test.fundgarage.com/4422/
⑦ Western Digital(B)
ウェスタンデジタル社も14日のJPモルガンのカンファレンスに続いて、6月5日のバンクオブアメリカのカンファレンスに出るようである。既にIRのWebページ上にWebcastingの場所が準備されていた。
http://investor.wdc.com/#2

アナリスト達の評価も変わっていない。

https://test.fundgarage.com/4424/
⑧ Xlinx(C)
特に状況は変化なし。

https://test.fundgarage.com/4426/
⑨ Applied Materials(D)
決算発表後、アナリスト達の評価は徐々に上がっており、今週のコンセンサスはついにOVERWEIGHTからBUYに変わった。

https://test.fundgarage.com/4428/
⑩ Check Point Software Technologies Ltd(E)
OVERWEIGHTをつけていたアナリストがHOLDに変えたようで、コンセンサスがHOLDに逆戻り。

https://test.fundgarage.com/4430/
