FG Premium Report 2月24日号(新型コロナウイルスに怯える市場)

INDEX

所感/雑感

予想通り、決算発表が一段落したあとは市場の関心事は新型コロナウイルスの感染拡大に集中した。そして悪いことに、当初からの想定通り、新型コロナウイルスの感染拡大は止まらない。アップルが悲鳴を上げたことも悲観の流れに拍車をかけた。米国金利が低下する中で112円台への円安進行は素直に日本売りだ。外出の自粛ムード。個人消費はどこまで落ち込むのか?

日米各株式市場の先週の終値と週間騰落率

新型コロナウイルスの感染拡大終息の目途は立っていない

まずは下の図を見て頂きたい。これはジョンズホプキンス大学が公開している新型コロナウイルスの感染拡大をリアルタイムで集計しているWebサイトだ。

(出所:ジョンズホプキンス大学公開の下記URLのWebサイト)
https://gisanddata.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/bda7594740fd40299423467b48e9ecf6

残念ながら、左上のTotal Confirmed(確認された感染者数の合計)は日を追うごとに増えている。富士フイルムグループの製薬会社である富士フイルム富山化学が開発した新型インフルエンザ治療薬「アビガン」を政府は「新型コロナウイルスの感染者を対象にアビガンの投与を推奨する方針を固めた」というが、特効薬であるとも言っていない。つまり歯止めを掛けられる保証はない。

諸外国の対応と違い、日本はクルーズ船から下船した人を、そのまま公共交通機関を使って帰宅させ、特に隔離などはしなかったが、やはり栃木で感染者が出てしまった。全員とは言わないが、きっとこれからも同様なケースは増えるだろう。栃木の人も既に外出したり、友人のクルマに乗せて貰ったり、接触を持った人はゼロでは無い。見えないものだけに、実に恐ろしいといえる。対策を立てようが無い。

市場が一番嫌がるのが未知のもの。被害想定の計算さえ終わってしまえば、戦争でも災害でも市場は冷静さを取り戻すが、未知な上に見えない新型ウイルスとの戦いとなるとまだ当面はモニターで株価を確認して楽しい時は先になるだろう。ここはひとつどっしりと構えて、前回もお伝えしたテレワークの事などで連想ゲームをしながら投資アイデアを用意しておくのが一番の妙薬だろう。

日経平均株価の実質的なレベルは23,000円を下回っている

前週末の日経平均株価の終値は23,386.74円と、まだ23,000円台をキープしているが、恐らく実際に運用をしている人、つまり機関投資家などの実感はもっと悪い筈だ。それを端的に説明出来るのがいつもの下のチャートだ。NT倍率とは、日経平均株価をTOPIXで割ったもの。

一目瞭然ながら、株価が下がる過程でNT倍率が約14倍にまで上昇しているのが分かる。市場全体の水準はTOPIXの方が実態をよく反映すると言われていることから、機関投資家が運用のベンチマークに使うのがTOPIXであり、だからこそNT倍率を参考にして日経平均株価からTOPIX並みの水準感を想像しようと利用する。

昨年同時期のNT倍率は約13.3倍となる。これに現在のTOPIX=1,674ポイントを掛け合わすと22,264.20円となり、実は現在の日経平均株価より1,000円以上安いことになる。恐らくこれが機関投資家や外国人投資家のポートフォリオの実感の筈だ。

今この時点で「だから何」という具体的な示唆は無いが、株価は日経平均株価が示している以上に下がっていると大口投資家たちは思っていると頭に入れて置いて欲しい。

現状の円安は単純に「日本が売られている」という意味だ

約10か月ぶりに1ドルが112円台に急落した。通常、「水は高いところから低いところに流れ、逆にお金は金利が低いところから高いところに流れる」というのが理屈だ。だから本来であれば、円安になる時は、円が売られてドルに流れている(買われている)ことを意味するので、相対的にはドル金利の方が上昇していないとこの理屈は成り立たない。

下のチャートは昨年末、2020年1月末、2月6日、そして先週末の米国のイールド・カーブを現している。左から順番に、青点線、赤点線、黄色、緑色である。

年末から1月末に掛けては中東情勢や新型コロナウイルスの話題で青点線から赤点線まで金利は下がったが、一旦市場は「悲観し過ぎ」と捉えて米国株が先に値を戻し、金利も黄色の線まで元に戻っていた。だがこの週末の米国金利の水準は1月末の時と殆ど変わらない水準にまで再度低下している。日本の金利は低いまま安定している。

この状態の中で10カ月ぶりに112円までの円安が急激に進んだのは、金利差を理由には説明出来ない。すなわち日本売りに伴う円売りと解釈出来る。新型コロナウイルスの感染拡大について、日本のメディアはクルーズ船の感染者までを日本の感染者として報道している。折角前述のジョンズホプキンス大学のような権威が、クルーズ船の感染者は「Others」として取り扱っているにも関わらずだ。

英国船籍で、米国企業が運航するクルーズ船について、日本にはその寄港受け入れ、着岸許可、感染症対策実行などの義務も責任も本来一切無い。だが人道的な見地からも、日本は着岸を許可し、一丸となって対策に乗り出した。しかし、残念ながら制圧は出来ず、船内の感染者数は増加し続けた。

問題は、外国人は下船後、各国のチャーター便で自国へ帰国したが、更にそこから2週間は隔離される(その中から既に陽性反応の発症者も出ている)にも関わらず、一方で日本はそのまま公共交通機関での帰宅を許したことかも知れない。既に栃木で下船者の陽性反応が発表された。

こうしたことから、日本でどこまで感染が拡がるのかが見えなくなってしまった。「Others」に括られていた数は、この先、日本国内の感染拡大の火種になるかも知れない。そうした不安が「円売り」を金利水準とは関係なく加速させ、112円台をつけたとも言える。その流れが「株売り」にまで繋がらないことを望むばかりである。

この先の動向のまとめ

三連休だというのに、どうも人出が減っている。多くのイベントが急遽中止になったりしていることを踏まえて考えると、やはり多くの人が無駄な外出は控えるようになっているのだろう。誰だって感染したくないからだ。

確かに、中国をハブとしたサプライチェーンの混乱は気になるところだが、例えばロームも村田製作所も、中国工場は既に12日から再稼働している。トヨタも24日に成都工場を再稼働させることで、中国国内のすべての工場が稼働することになると報道されている。

武漢や湖北省の状況はまだ厳しいのは事実だとしても、気を付けなければならないのは、メディアが伝える映像等は、全体の俯瞰図ではなく、限られたシーンの切り出しの場合が多いという事だ。その最たる例が、あれだけ騒いだ日韓問題も、北朝鮮問題も、自然体でいる限りは殆ど見聞きすることが無くなったことだ。どれひとつ解決したという話は聞いていない。メディアは伝え易いこと、日本人特有のメンタリティーに訴求し易いことを綿々と繰り返し伝えようとする癖がある。

しかし投資家は常に冷静で合理的に物事を考えないと勝つことは出来ない。例えば、数字で冷静に新型コロナウイルスの感染者数、発症者数、そして死亡者数を捉えた場合、全人口比、対労働者人口比、各世代間比などは著しく経済にマイナス影響を及ぼす水準とは言えないとみるべきであろう。更に言えば、日本の人口の約3倍の米国では、今シーズン、約14,000人の方がインフルエンザで亡くなり、25万人が入院し、2,600万人が感染者となっていると米疾病対策センター(CDC)が発表しているが、現時点、米国経済は好調である。こうしたロジカルシンキングが重要だ。

センチメントはプラスに振れ過ぎる時もあれば、マイナスに振り過ぎる時もある。今はかなりマイナスに振っていると思われる。

注目の右肩上がりのビジネス・トレンドとトピックス

前回、「本当の意味での「働き方改革」のような、311東日本大震災の後に起きたような流れが始まるかも知れない。つまり、テレワークの加速である」とお伝えしたが、予想外に同様なことを多くのメディアが取り上げているのには正直驚いた。だが、その多くが未だこれから起ころうとしているテクノロジーの進化までは踏まえていない。

テレワークはもっと幅広く行えるようになる

テレワークに必要な重要な要素を一言で言えば「いつでも、どこでも、簡単に、安全に、社内外のITインフラと繋がることが出来る環境」だ。そしてこれらをホワイトカラー中心の世界から更に発展させ、工場の生産現場、建設工事現場、更に言えば医療現場など、実際に手や体を動かすことを必要とする職種にまで拡げられるのが5G、IoT、エッジコンピューティングと言った技術だ。

例えば遠隔医療を考えてみよう。感染症かもしれない患者に対して診察を行う時、もし患者が病院に赴くのではなく、必要な診察を在宅で行えたら今の状況は激変する。既に体温、血圧、脈拍、呼気データなどの採取は安価なセンサー類で簡単に行える。これに5Gの通信環境が加われば、どこからでも4Kどころか8Kの超鮮明映像をスマホから簡単に送受信出来るようになる。患者に医者が直接触れることは出来ないが、相手が感染症の疑いならば、そもそも直接触れることは無い。また8Kレベルの画像データをもとに、画像解析(エッジコンピューティング)をリアルタイムで行った上で医師が判断することも出来る。失礼を恐れずに言えば、膨大な量の画像データをディープラーニングしたAIを使えば、医師の診断精度が感染症以外でも向上するかも知れない。

また患者の様子をリモートで24時間モニタリングをすることも出来る。AIがエッジ(患者の所)から送られてくるデータを常に評価分析していれば、入院患者の容態変化の発見もより早くなるかもしれない。しかもそこまでは在宅で可能だ。AIは睡眠を必要としない分、24時間休むことなくモニタリング出来る。

もうひとつが遠隔手術だ。実際にビジネスショウでプロトタイプを見たことがあるが、簡単に表現すると「超高性能マジック・ハンド」を使う。人間の手のように動くロボットは幾らでもあるが、指先が触れた感覚と同等なものを離れた場所で操作する者にリアルに伝えることが出来るようになりつつある。これは現在のファイバースコープを利用した外科手術を更に発展させたものとなる。超高速、超低遅延の5Gならば、隔地でもリアルタイムの映像と感触を正確に都会の大学病院などにフィードバックすることが可能になる。

こうした遠隔医療をするための技術水準よりは、多くの工場の生産現場の方が要求水準は低い。つまり「生産現場ではテレワークなど出来ない」という考えは、これからの5G、IoT、エッジコンピューティングといった時代には不要となる。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大は思わぬ副産物、つまり「5Gのキラーコンテンツは何だ?」という問いへの答えを齎すかもしれない。

シノプシス(SNPS)

半導体開発用ソフトウェアのEDA(Electronic Design Automation;電子設計自動化ツール)で前回のケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS)と競合する。やはり決算は市場予想を上回った。

19日の決算発表後の株価が下がっているのは、個別の理由というよりも市場要因によるものと思われる。カンファレンスコールでは、やはり新型コロナウイルスの感染拡大の影響について、ガイダンス説明の前にどうしても触れないとならない。同社も他社と同じく、まず関係者の健康を第一に考えることと、後ズレする可能性は否定しないが、その分は後で全て載って来るというコメントを発している。

下記の図はより高度な半導体設計が必要とされる今の環境が非常に分り易く説明されている。注目のビジネス・トレンドはここでも右肩上がりなことが証明された。

来週注目の米国企業の決算発表

2月24日 パロアルトネットワークス(PANW)

株主となってその企業と一緒に夢を見たいと思う会社10選

*上記表について:日本株、米国株からそれぞれ上限を5銘柄として絞り込み、ひと銘柄当たりの投資余力を10百万円として、株数を計算。売買手数料は証券会社によって違うので考慮していない。ビジネス・トレンドや各企業の状況により適宜入れ替える。ロスカット、益出しルール等の設定はしない。

個別の企業に関わるニュース・コメント

①  住友電工

21日付で国内無担保普通社債を合計300億円(第28回~第30回)発行することを発表した。これに先立ち20日、ムーディーズ・ジャパン(MDY)が同社の発行体格付け「A1」を確認した上で、見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更したと発表した。大勢に影響ある話とは思わない。

[blogcard url=”https://test.fundgarage.com/premium/mfc10-1/”]

②  デンソー

漸く決算説明会での質疑応答要旨がWeb上に開示された。正直、この対応には極めて不満であるが仕方が無い。

問題の「品質費⽤計上の背景」については案の定、第一問目に掲載がある。
回答は「以前に⽐べて製品が⾮常に⾼度化する中で、ソフトウェア・電⼦部品の搭載⽐率が⾼くなっており、品質を作り込む難易度が上がってきている。また、完成⾞メーカー(OEM)や⾞種をまたいだ部品共通化が進んでいることで⼀度品質問題が起きてしまうと、昔に⽐べ⾦額が多額になる傾向になっている。そのため、これまで以上に品質を作りこむ技術と、起きてしまった時に⽀払い切れる体⼒が必要になってきている。」という分かるような煙に巻かれたような答えだが、面白いことも言っている。「出荷後にソフトウェアは書き換えで対応できる仕組み、電⼦部品は基盤ごとの交換ができるような補修性を⾼め、品質費⽤を低減できるよう取り組む」とある。ポイントは前者。「出荷後にソフトウェアを書き換え出来る」というのはFPGAのことだ。コストを抑えたASICからFPGAへの流れが加速する。

新型コロナウイルスの感染拡大の年間業績見通しへの影響については、基本的にそんなに気にしていないというトーンである。

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③  ローム

こんな時だからこそ、こういう前向きな発表はありがたい。

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④  村田製作所

中国での工場稼働再開については、その後に特にリリースは無いことから、多少生産量は低下していると思われるが通常稼働しているとみることが出来る。株価はアップルの「1―3月期の売上高について会社予想に届かない」と言ったコメントに左右されたが、ファンダメンタルズには何の変更も無い。

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⑤  ソフトバンク・グループ

今週は特にありません。

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⑥  Nvidia

決算発表後の市場の評判は予想以上によく、株価は仮想通貨のマイニング需要で急騰した時の水準を超えた。

HoldからOverweightに格上げしたアナリストが1人いる。

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⑦  Western Digital

Western Digital OpenFlex™NVMe-oF™デバイスがStorage Magazineから年間最優秀製品に選ばれた。

担当アナリストがひとり減っただけ。転職か?

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⑧  Xlinx

今週はアナリストレーティングに変化なし。

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⑨  Applied Materials

中国の半導体製造技術の向上阻止を目的として、またトランプ政権が何やら企んでいる。WSJ誌が報道している。ターゲットとなるのはHuaweiだが、米国企業自体が足を引っ張られるのでは意味がない。

今週はアナリストレーティングに変化なし。

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⑩  Check Point Software Technologies Ltd

2月24日に発表されるパロアルトネットワークス(PANW)の決算に注目。新興の同業他社が事業環境をどう評価しているかも要チェック。

今週はアナリストレーティングに変化なし。

[blogcard url=”https://test.fundgarage.com/premium/mfc10-10/”]