FG Premium Report 5月25日号(過去の常識を捨てる)

INDEX

所感/雑感

米株市場は日本株市場の2倍近く上昇した。早くもITバブルを疑う声もあるが、答えはニュー・ノーマルの状態で鍵を握れる企業と衰退する企業の二極化の始まりと、勝ち組の多くがやはり米国企業だからだろう。確かに米国の新型コロナ感染状況は最悪だ。だがその状況でも経済活動を行えるようにする技術を擁するのは米国だ。ただそれを安易にFANGと捉えるのも間違いだろう。「ニュー・ノーマル」という以上、2019年迄の世界観とは全てのものが変わると考えないと、この先に勝ち目はないと思われる。

日米各株式市場の先週の終値と週間騰落率

投資で勝つ秘訣は、如何に想像力を逞しく出来るかだ

産業革命の歴史を紐解くもよし、IT革命だけを追うもよし、何れにしても大きな時代の変革期に投資で成功し、勝つために必要なのは「過去を引きずる常識」ではなく、「豊かなSF小説作家のような想像力」だと私は思う。だが多くの場合、市場のマジョリティは貧困な発想しか出来なかった。荒唐無稽と笑われることさえあった。

私が「これは注目です」と「モーニングサテライト」などのテレビでコメントしても、市場のマジョリティにはなかなか受け入れて貰えなかった事例を幾つか紐解けば、

  • Windows95のリリースで動き始めたインターネット、凄いことになると言っても、多くの評価は「オタクが好むパソコン通信の進化版でしょう」程度のものだった。
  • 90年代後半に携帯電話が徐々に身近になっていく頃、生活様式が変わりますよと言っても、「公衆電話があるのに必要ないし、何処にいても電話が掛って来るなんて寧ろ邪魔」というのが多くの意見だった。
  • ましてや携帯電話にカメラをJ-Phoneが付けて売り出した時、当時のドコモ社長でさえ「携帯で写真を撮って他人に送るニーズなど無い」と豪語して無視していた。凄い面白い発想だと思ったのだが・・・
  • 2000年代、パソコンの性能が日進月歩し、更に性能は加速すると訴えたが、「インターネットを使うと言っても、メールと検索に使う程度で、あとはOfficeが普通に動けば良い」と性能進化の必要性を理解してくれる人は少なかった。
  • 「これからブロードバンドの時代が来ます!」と騒いでも、「ブロードバンドになってもキラーコンテンツが見えない」と、証券アナリスト達でさえ絵が描けず、「大島さんの言っていることは半分は解りますが・・・」とよく言われた。半分とは技術進歩の流れの事だけだ。
  • iPhoneが登場した時、「パソコンを手許に持って外に持ち出す時代が来た」と興奮したが、「テンキーが無いスマホなんて操作出来ない」と一笑に伏す人も沢山いた。

 

などなど、例を挙げれば枚挙に暇が無い。当然、どれもこれも今では信じられない人々の反応例だ。すべてが生活様式を変える起爆剤になったのだから。

新型コロナの感染状況を日本国内の状況だけ見ていれば、やはり「たいしたことは無かったじゃないか」と思う人は多いだろうし、実際私も「メディア等の騒ぎ過ぎ」と当初は思っていた。だが2月下旬から国別の感染状況を日々集計し、分析を続けることで、大きく考えも変わった。理由は諸説あり定かではないが、「日本は例外的にうまく対応している稀有な存在で、ここでの肌感覚で想像したら絶対に見誤る」と思うようになった。騒ぎ過ぎの面も確かに否定は出来なかったが、結果としてそれがスタンダードになり、季節性インフルエンザとは全く違う恐ろしいウイルスとしての立場を「COVID-19」は確立した。

「アフター・コロナ」「ポスト・コロナ」と、あたかも新型コロナに苦労する時代はどこかで終わると思っている人も多いようだが、それこそ「過去の常識の延長線上での想像力」でしかないように思われる。COVID-19を征服することは多分不可能だ。可能だとしても、人々の生活様式が大きく変わるに充分な時間が征服・克服までには必要そうだ。その辺りは毎回お薦めしているが、是非Fund Garageの「世界の新型コロナウイルス感染動向・国別データの分析」を毎日チェックしてみて欲しい。毎朝遅くとも8時まで(通常は7時半前後)には最新版にデータを更新してある。日本と違い、海外ではまだまだ拡大傾向が続いている。

ならばどういう生活様式に変化していくのか、人間がその場に留まっている生き物ではない以上、もう過去には戻らない。何がどう変化していくのかを、想像力逞しく描けた投資家こそ大きな成果をあげることが出来る。90年代にマイクロソフト、2000年前にアマゾンドットコム、2008年にアップルを買えたかどうかと一緒だ。

ニュー・ノーマルの生活様式はどうなっていくかを想像する

その意味ではこの先を言い表す表現は、「ニュー・ノーマル」(新たな常態・常識)が最も適しているだろう。意味としては「With COVID-19」、「新型コロナウイルスのある生活」ということだ。常にこれを意識して生活を変えて行かなければならない。端的な要素が「ソーシャル・ディスタンス」だろう。

因みに下記は、日本IBMが5月22日に発表した新型コロナウイルス感染症に伴う政府の緊急事態宣言の解除後について、その勤務体制など対応方針をまとめた「Return to Workplace」だ。現在95%の社員を在宅勤務としている同社だが、7月末ではこのままの状態が続くようだ。10月以降でも週に2-3日の出社であり、5日間の出社計画は無い。そしてこれが第2波は来ないベストシナリオでの計画だということを忘れてはならない。もし第2波が来てしまったら、現状の95%が在宅勤務の生活様式が維持される。

 

ここに詳細は記載されていないが、恐らくアフターファイブ、在宅勤務中の余暇の過ごし方なども細かく規定されているだろうと思う。例えば「3密の場所への出入り禁止」などだ。外資系企業の恐ろしいところは、ルール遵守、コンプライアンス違反には極めて厳しいということだ。禁止したことを守らずに感染したりした場合、躊躇なく離職させられるだろう。だとすれば、類似の企業、つまり外資系企業の社員の人達は、少なくとも忘年会のシーズンでも夜の街を飲み歩くようなことはなく、オンライン飲み会程度で済ますのだろう。例外はあるだろうが、感染したら居なくなるだけだ。

もし現在の住環境が在宅勤務に適していないとしたら、例えば(オンライン学習の子供が二人いるなどして)仕事に集中出来る自室が無いとか、ネットワーク環境が悪いとか、或いは駐車場代が高くて外出するには公共交通機関の利用しかないとかだとしたら、更に年内いっぱいを漫然と堪え切れるだろうか?中には通勤の利便性を優先して、喘息なども我慢している人などが居るのも知っている。常識的には住環境の変更を視野に入れるのではないだろうか?いずれ週に1,2回の出退勤を我慢すれば良いのだから。

逆に企業側で考えてみよう。95%の社員が出勤してこないオフィスビルを、黙って高い家賃を払い続けて借り続けるだろうか?社員が出勤してこない以上、空箱に空気を詰めて家賃を払っているようなものなのだから。既に、丸の内界隈では不動産賃料の割引が始まっていると聞く。テレワーク・リモートワークに対応するための設備投資こそ優先課題なのだから。もし半年間だけ堪えれば元に戻る保証があるのならば企業側も堪えるかも知れない。だが、その保証は「アビガンから有効な臨床データは得られなかった」というのと同じように不確かなものでしかない。

銀行の窓口からテラーが消え、モニターが並ぶ

今回の自粛騒動中、三井住友銀行が「不要不急な用件で窓口に来ないで」(勿論、言い方はもっと大人です)というCMまで流していた。知人も多いので聞いてみると、古い通帳の記帳に来たり、硬貨の入金に来てみたり、古い紙幣の交換に来てみたり、如何にも不要不急な(少なくとも今までしてこないで、敢えて外出自粛要請の期間にしないでも良い手続きなど)なものの為に来店する人が多かったらしい。またマスクをしてこない人や、「もしお急ぎで無ければ・・・」とロビー担当が声を掛けると怒り始める「モンスター・クライアント」だったり。私が銀行で窓口テラーを務めていた時にも、交通違反の罰金の払込書と現金を投げてよこし「払ってやるよ」と言われたことがある。どうも一般の方にとって銀行とは不思議な存在のようだが、相対で、しかも至近距離で会話をしないとならないテラーたちのストレスは相当なものであったようだ。

近未来、銀行の窓口カウンターから生身のテラーは消えるかも知れないと思った。業務内容の多くは機械に置き換えることが出来る。ただ銀行員とのFace to Faceのコミュニケーションが諸手続きには必要だと思う固定概念が生身のテラーを窓口に配置させているが、モニターにリアルに映る行員でも良いのではないか。カウンターの上にはタッチパネルと現金等の収受口があれば、そうATMの諸届対応版があれば充分だ。モニターには、裏側には存在しない在宅勤務のテラーが居る。だからFace to Faceで説明を受けながらお客様も手続きが出来るし、テラーでさえもリモートワークで出勤不要だ。こんなシステムならば現在の枯れた技術で充分製作可能だ。更に将来は音声認識のAIテラーに変わるかも知れないが、実用化にはまだ時間が掛かる。

恐らく、この考え方の延長線上で多くの産業でリモートワークやテレワークが可能になるだろう。医療機関の一次診療は当然かなりカバー出来る。体温、血圧、脈拍、血中酸素濃度などはその場で測れるし、喉の奥を覗き込むようなことだって出来る。薬剤師が必要な薬局も同様だ。薬剤師がひとりで数か店を担当するなんてことも可能だろう。

3密を避けられない産業は自ずと衰退し、一方でこうしたモニターとカメラとスピーカーのシステムが従来はFace to Faceが必要だと考えられていた仕事を置き換えていくとすれば、ガラリと生活様式も、生活地域も、生活習慣も、多くのものがこの先変わる可能性は高い。変化することには軋轢もあるだろうが、命懸けで新型コロナウイルスに怯えながら就労するよりは、余程良いと考える人は多いように思う。

マーケットのテクニカル分析

米国株と日本株、共に株価とボラティリティの関係はいつもの通りで、新たな展開(2番底など)を予想させるものは無い。

 

 

米国債券のイールドカーブ、これも殆ど今週は動きが無い。

 

最後に原油価格だが、経済の再稼働を期待してか、徐々にではあるが価格は戻し歩調となっている。リスク要因には現状はならない。

この先の動向のまとめ

今回の「所感/雑感」は敢えて定性的な形で纏めてみた。それには二つの理由がある。

  1.  新型コロナウイルスを克服したと考えるのはまだ早いと考えるから
    日本では「緊急事態宣言」が解除になる方向にある。恐らく週明けには首都圏も解除されるだろう。それを受けてか、飽きっぽいメディアが盛んに取り上げているのは、「検察法改正」関連の話であり、それに誘導された「内閣支持率低下を示した世論調査」などだ。だが「世界の新型コロナウイルス感染動向・国別データの分析」で示しているように、世界で捉えれば、この新型コロナウイルス感染拡大は続いており、まったく終息は見えていない。寧ろ各国が徐々に規制を緩和していることで第2波襲来の恐怖さえ数値上は感じるが、不思議なぐらいにこの国は暢気な方に考えが偏っていっているように思える。
  2. エヌビディアのGTCを見て、加速しているITインフラの変化を垣間見たから
    新型コロナウイルスの影響で、毎年3月にサンノゼで行われていたエヌビディアのGTC(GPU Technology Conference)はオンラインで開催され、更に創業者兼CEOのJensen Huang氏の待望の基調講演が5月14日に行われたからだ。続く21日に発表された同社のFY21の第1四半期の決算発表も、基調講演の内容を裏付けるもので、「非接触型の社会」へ向かうエネルギーは、AI、IoT、5Gなどの技術トレンドを加速させながら進み続けていることが確認出来た。

この二つの理由から、今回は敢えて定性的な形で纏めてみた。時代が大きく変わること、想像を逞しくしないと勝てないこと。逆に想像逞しく新たな絵面を描くこと出来るかどうかが、歴史が証明している通り、この先の「非接触型の社会」であり、「ニュー・ノーマル」の時代に投資で勝つ秘訣だと考えたからだ。

エヌビディアのGTCの件などは、この後の「注目の右肩上がりのビジネス・トレンドとトピックス」の方で詳説したい。

注目の右肩上がりのビジネス・トレンドとトピックス

エヌビディア(NVDA)は、幻となっていた同社の創業者兼CEOであるJensen Huang氏の「GTC (GPU Technology Conference) 2020」の基調講演の配信を開始した。CEO自らAI、ハイパフォーマンス コンピューティング(HPC)、データ サイエンス、自律マシン、ヘルスケアおよびグラフィックスにおけるエヌビディアの最新のイノベーションを詳説している。そして何より録画されてのオンライン配信であるが故、字幕で日本語を見ることも出来るようになった。これは日本の多くの投資家にとって朗報だろう(注:ただ日本語の完成度は正直言って高いとは言えないこと、またどうしても専門用語が多いので、初めて視聴する人は「寝落ち」する可能性を否定は出来ないのにはご注意頂きたい。ただ内容は瞼にセロテープを貼ってでも最後(9章だて)まで見ることを強くお勧めする)

GTC基調講演

(最初に動画画面右下にある[CC]とあるところにマウスカーソルを合わせると、Caption off と Japaneseを選択出来る。Japaneseを選択すると、画面下部に日本語字幕が表示される)

各章立ては以下の通りとなる。

  • パート1 はじめに (NVIDIA Mellanox)
  • パート2 RTXグラフィックス (NVIDIA RTX、NVIDIA Omniverse)
  • パート3 HPC&データ分析 (Spark3.0とDatabricks)
  • パート4 レコメンダーシステム (NVIDIA Merlin)
  • パート5 対話型AI (NVIDIA Jarvis)
  • パート6 NVIDIA A100 GPU (NVIDIA HGX A100、NVIDIA DGX A100)
  • パート7 エッジAI&ロボティクス (NVIDIA EGX A100、BMW Logisticsなど)
  • パート8 自動運転車両 (NVIDIA DRIVE AGX)
  • パート9 まとめ

更にその下まで画面をスクロールすると、基調講演の中で話される多くの専門用語やテクノロジーの詳細を見ることが出来る。

エヌビディアは画像処理を専門に行うGPU(Graphics Processing Unit)の専業会社として誕生したが、そのGPUの特性を活かして、今やデータセンタやAIには無くてはならない存在にまで成長した。

CPUとGPUの違いを纏める

一般にエヌビディアはGPUの会社として考えられ、GPUは上記表にもある通り「3Dグラフィックスなどの画像描写に必要な計算処理」を行うことが主な役割と捉えられているが、現在寧ろその特徴を遺憾なく伸ばしているのは「並列的な計算処理」が得意であり、コア数が数千個、そしてCPUの数倍~100倍以上の計算速度を出せるというGPUの特徴がAI時代に本領発揮と成りつつある。その最たるものがGPUの高い演算性能を活用して、3Dグラフィックス以外の計算処理も行わせるGPGPU (General-purpose computing on graphics processing units)である。

ならばインテルとAMD(GPUも生産)が得意とするCPUは何を行うのかと言えば、HDDやメモリ、OS、プログラム、キーボード、マウスなどを含むコンピューター全体から送られている情報をまとめて処理する司令官と言える。ここに映像を描写するように、定型的かつ膨大な計算処理を行うのに適したプロセッサであるGPUが協力することで、超高速での大量データ処理が可能になってきている。その典型がディープラーニングで、近年ではGPUだけでその処理を行うGPUサーバーなども伸びが著しい。

恐らく数年前までの知識だと、データセンタに並んでいるのは一般のパソコンよりも性能が上の「サーバー」と呼ばれるもので、一般のパソコンのCPUに比べて、コアの数が2倍、若しくは1枚のマザーボードの上に2つのCPUを搭載していると言ったイメージのもので、サーバーが抱えているデータストレージ(HDDやSSD)の容量は思った以上に小さいといったものだったかも知れない。例えば以前は良く会社のIT担当者が「サーバーのHDD容量が一杯になってきたので、各自不要なファイルを削除してください」などと声が掛かったものだ。

例えば、下記に示したのが「さくらインターネット株式会社(3778)」という大阪に本社がある日本最大手のホスティングサーバを中心とするデータセンタ事業およびインターネットサービス事業を行う会社が提供しているレンタルサーバーのメニューだ。各メニューの中段に容量という記載があるが、最大のものでも700GBである。

この世界の延長線上でエヌビディアなど、米国のハイテク企業が決算発表時に「データセンタの力強い需要」というのを考えてしまうと、実際にCEO達が意図しているものとは違ったものを見てしまうかも知れない。

まず端的な例をひとつご紹介すれば、予てから「これからのゼタバイト時代にデータセンタの負荷は爆発する」と伝えてきた絵は全く描けないだろう。1テラバイトすらない700GBのサーバーが最上位のレンタルサーバーのイメージからは、ゼタバイト時代は想像がつかなくて当然だ。更に言えば、エヌビディアが買収を完了した最高のスループット、最小のレイテンシーを提供し、データセンタの効率性を向上させるMellanox社買収の背景は分からないだろう。

ポイントとしては、クラウドのデータセンタと、こうした伝統的なホスティングサービスを提供している企業のデータセンタとは、基本的に意味が違ってきているということだ。その感じを掴んで貰う為にも、是非、GTC基調講演をご覧頂きたい。100%理解されるのは専門家では無いので間違いなく無理だと思うし、全然それで問題ない。私たちはIT屋ではなく、投資家なのだから。でも、この匂いを知っているのかいないのかで、今後の投資で想像力を逞しくする時、どこまで逞しく出来るかが大きく違ってくる筈だ。

My favorite Companies List(株主となって所有したい企業のリスト)

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